「伊平屋島」隠れた楽園、穴場の離島を観光
沖縄本島北部にある本部半島から北へ41.1キロ。沖縄最北の有人島である伊平屋島(いへやじま)。サンゴ礁が連なる海岸線と美しいエメラルドグリーンの海に囲まれた島は、海の幸、山の幸に恵まれています。
![海岸から50メートル沖合にあるヤヘー岩。 海岸から50メートル沖合にあるヤヘー岩。]()
那覇市から北西へ117キロ、沖縄本島北部の今帰仁村(なきじんそん)運天港(うんてんこう)からフェリーで1時間20分、北へ41.1キロの位置にある伊平屋島。島は北東から南西にかけて細長く、海に囲まれていながら、200メートル級の丘陵地帯が広がっていて、どことなく山深い雰囲気があります。手つかずの自然が多く、古き沖縄の風情が残る家並みや伝統芸能、伝説のまつわる話が現在も受け継がれています。また、水が豊富で県内では2番目の米どころでもあり、近年は、地元の素材を使った食材も注目を集めています。
取材日/2014年 7月 取材者/嘉手川学
更新日/2017年 6月
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伊平屋島には手つかずの美しい自然が残る
![雄大な自然は眺めているだけで、心が洗われるようです 雄大な自然は眺めているだけで、心が洗われるようです]()
沖縄で最も北にある有人島・伊平屋島。近年の沖縄人気にもかかわらず、訪れる観光客数は年間2万人弱というのは、島への交通手段が1日2便に限られていることと、大型の観光施設がないからです。けれど、伊平屋島には青く澄み渡る海、緑に覆われた200メートル級の山々が海岸にせり出すなど、美しい自然をありのままの姿で見ることができます。
一度島に訪れた人は、自然の豊かさに感動し、リピーターとなる人も多いといいます。山全体を自生するクバ(ヤシ科・ビロウ樹)に覆われた「クバ山」は、県の天然記念物に指定されています。海岸から50メートル沖合にある岩山の「ヤヘー岩」、透明度が抜群で、エメラルドグリーンに輝く海と真っ白な砂浜のコントラストが美しい米崎海岸、断崖から見下ろす景色が素晴らしい虎頭岩(とらすいわ)展望台など、見どころや遊びどころがいっぱいです。
伊平屋島の昔から変わらぬ風景と人の営み
![水が豊富な山の麓にある田んぼ。金色に輝く稲穂が広がっています 水が豊富な山の麓にある田んぼ。金色に輝く稲穂が広がっています]()
島内の4つの集落と、野甫島(のほじま)の野甫集落と合わせて5つの集落で構成される伊平屋村。山麓に水田地帯が広がる田名(だな)集落、役場や郵便局、小中学校などがあり村の中心地の我喜屋(がきや)集落など、集落ごとに個性があり、違う風景を見せてくれます。
「田名集落の近くに念頭平松(ねんとうひらまつ)がありますから見に行きましょう」と上江洲さん。傘のように枝が広がった琉球松は、約300年前に植えられたものだといいます。太い幹は4.5メートルもあり、沖縄県の天然記念物に指定されているそうです。
念頭平松から田名集落へ向かうと、金色の頭を垂れた稲穂が一面に広がっています。「稲はほぼ実っているのですが、一週間後がベストな刈りどきですね」と上間さん。
しかし翌日、大型台風が沖縄地方に接近すると予報され、急遽、稲を刈ることになったというので見に行きました。「伊平屋島では米の二期作をしていますが、二回目の刈り入れ時が台風と重なるから厄介なんですよ」と農家の人。稲刈り風景を見ながら、大きな台風に耐えて歴史を重ねてきた島の人々の暮らしに思いをはせました。
月明かりの下で“ムーンライトマラソン”
![島中の人たちが総出でランナーを応援してくれます 島中の人たちが総出でランナーを応援してくれます]()
マラソンマニアから一度は走ってみたいといわれているのが、毎年、10月中旬頃開催される「伊平屋ムーンライトマラソン」。田んぼの広がる田園風景や海岸線の景色を楽しみながら走ることができます。時間とともに青から茜色、濃紺へと空が変わるなか、東海岸から月が昇り、走る人たちにやわらかな光を投げかけます。そしてランナーたちは月灯りの下、手にするペンライトやヘッドライトを頼りにゴールを目指します。
「星の応援、月の伴奏」というキュートなキャッチコピーから女性にも人気。公式マラソンとしては日本で唯一認められていたナイトマラソンだったが、2014年6月14日(土)に北海道の奥尻島で「第一回奥尻ムーンライトマラソン」が行われ、約500人の市民ランナーが健脚を競いました。
「奥尻のムーンライトマラソンは伊平屋ムーンライトマラソンののれん分けという形で始まったので、今回の奥尻の大会は伊平屋村長と村役場の職員も大会を見守りましたよ」と上間さん。奥尻島では、ムーンライトマラソン発祥の地として伊平屋島が紹介されたといいます。
「何よりも参加者全員に喜んでもえらえるのが、マラソン後の後夜祭。牛汁や泡盛がふるまわれ、参加者と島の人が交流し、大いに盛り上がりますよ。また完走者には、伊平屋島で作っている焼物のメダルが好評です」と上江洲さん。
伊平屋島には、伝統と神が息づく
![我喜屋のシヌグは子どもの健やかな成長と子孫繁栄を祈願 我喜屋のシヌグは子どもの健やかな成長と子孫繁栄を祈願]()
伊平屋島には古くからの伝統行事が今も多く受け継がれています。海の神様を迎えて豊漁を祈願する「田名のウンジャミ」や、五穀豊穣を願ってみんなで綱を引く「我喜屋の綱引き」、子どもの健康と子孫繁栄を祈願して、神アサギ(祭祀に使われる建物)で神女に祝いの言葉を述べさせる「シヌグ」など、1年間に50近くの年中行事や祭事があります。そのため、伊平屋島は「民俗学の宝庫」といわれています。
なぜ、伊平屋島に古くから祭りが多く残っているのでしょうか。もともと琉球古来の祭りは、稲作を中心とした五穀豊穣を祈願するものでしたが、時代の変化とともに、県内各地の農家は米作りからサトウキビや野菜などに転作したため、祭りの内容が変容していったといわれています。伊平屋島では、先祖から受け継いだ田んぼを大切に守ってきたことで、昔ながらの祭りが今も人々の生活に根付いているのでしょう。
達人おすすめ! 伊平屋島の海の恵み“塩”
![風と太陽で海水を濃縮。天日と手作業でじっくり仕上げます 風と太陽で海水を濃縮。天日と手作業でじっくり仕上げます]()
「ぜひ見てほしいのが野甫島ですね」と上間さんはいう。野甫島は、伊平屋島の南西に位置する小さな島で、伊平屋島とは全長680メートルの野甫大橋で行き来ができます。「この島で注目したいのが野甫の塩です。塩づくりを始めて18年目になりますが、この塩は世界に羽ばたく産業になる可能性があると思います」
世界中を回って、独学で塩の研究を重ね、野甫島で塩づくりをスタートさせた「野甫の塩」代表の松宮賢さん。製塩施設は設計から施工まで全て自ら手がけ、理想の塩づくりに試行錯誤を繰り返したといいます。そして辿り着いたのが、野甫島のきれいな海水を風と太陽を利用して濃縮し、さらに天日で干して、結晶化した塩を手もみする方法。一切熱を加えず自然の力だけで仕上げた野甫の塩は、ミネラルのバランスが良く、どんな料理とも相性が良いそうです。
松宮さんが作った塩「塩夢寿美(えんむすび)」は、野甫小中学校近くの「倶楽部 野甫の塩」で販売中です。
「倶楽部 野甫の塩」
住所:伊平屋村野甫396-1
電話:0980-46-2180
営業時間:9時~17時
定休日:土曜・日曜
http://www.cam.hi-ho.ne.jp/nohonoshio/hpnohonoshio_001.htm