大石林山。大自然からパワーを
もらうプチアドベンチャー

沖縄本島北部は「やんばる」と呼ばれ、大自然が色濃く残る亜熱帯の森が広がっています。そんなやんばるの最北部、ヤンバルクイナやノグチゲラといった貴重な動物が生息し東洋のガラパゴスともいわれる国頭村（くにがみそん）で、ひと際大きな存在感を放つ観光スポットが、大石林山です。古来より聖なる地として伝えられてきたこの山々には、自然が作り出した迫力ある造形美はもちろん、神話に通じる不思議なスポットが点在し、現在ではやんばる国定公園に指定されています。その魅力をとことん解説します。

国頭村にある大石林山。天を刺すように伸びる岩山が続く姿は、訪れる者を圧倒する迫力に満ちています。いったいどのようにして、こんな場所ができたのでしょうか。 この岩山は、2億5千万年前の石灰岩が長い年月をかけて雨水などにより侵食されてできた、世界最北端の熱帯カルスト地形。そのカルスト台地に石灰岩が塔のように露出している状態を『ピナクル』といい、大石林山のピナクルは最大で高さ10メートルほどもあります。荒々しく切り立った巨岩が林立するこの景色は、ほかでは見ることができません。そんな険しい姿の大石林山ですが、一歩足を踏み入れると、緑豊かな大自然に包み込まれ、どこか穏やかな気持ちになります。それもそのはず、ここは神が琉球を創った神話にまつわるスピリチュアルスポットでもあるのです。 「このあたりの山々は安須杜（アシムイ）と呼ばれ、昔から聖なる地として伝えられてきました。祖神アマミキヨによって沖縄で最初に創られた聖地であると琉球王朝の歴史書にも記されており、40を超えるウガンジュ（沖縄の方言で拝所のこと）があるといわれています。中には断崖絶壁や立穴の洞窟など非常に危険な場所にも作られており、深い信仰が寄せられてきた場所であることがうかがえます。

大石林山には、東京ドーム約11個分という広大な敷地の中に、２つの散策コースが設定されています。神々のしわざともいうべき巨大彫刻群の中を歩く奇岩・美ら海パノラマコース（約1200メートル、所要時間約60分）、熱帯の森を歩くやんばる森林コース（約1000メートル、所要時間約30分）。山ということもあり「回るのが大変なのでは？」と思うかもしれないが、いずれも子どもと一緒に楽しく歩けるような道です。すべてのコースを回っても料金は変わらず所要時間は1時間30分程度なので、全コースを制覇する観光客も少なくないそうです。 　駐車場に隣接したチケット売場から出ているシャトルバスで山道を登り約5分。精気小屋と名付けられた建物がすべてのコースの出発地点となっています。

２つのコースの見どころスポットをご紹介します。まずは、美しい沖縄の海を見渡せる奇岩・美ら海パノラマコース。 最初に現れるのが『悟空岩』。孫悟空が生まれた岩山をイメージして命名されたこの岩は、大石林山の顔ともいえる人気の場所です。脇を登って裏手に出ると『石林の壁』があります。天上界と地上界の神々が集う聖地といわれ、この壁に降り注ぐ朝日を通じて太陽のエネルギーが集まるパワーストーンが置かれています。カルシウムでできたという半透明の石を両手で包み込むと、心身のバランスが整うのだそう。そこからさらに「骨盤石」「生まれ変わりの石」と不思議な形をした石を見ながら進むと、一気に視界が開けます。 そこは、コース名の由来ともなっている『美ら海パノラマ』。沖縄本島最北端の辺戸岬（へどみさき）を見下ろすとともに、その先には鹿児島県の与論島や沖永良部島が見えます。見渡すかぎりの海を前に、大きく息を吸い込むと、大自然のパワーが体にみなぎるようです。 コースの終着点にあるのが『烏帽子岩』です。石灰岩が溶食し、まるで塔のようになった岩は、その先っぽがシーサーに見えたり、狛犬に見えたりと、見ていて飽きません。

ちょうど駐車場への帰り道にあたるやんばる森林コースには、壮大な「御願（うがん）ガジュマル」があります。時間や体力に余裕のある人はここまで回って帰るのがおすすめです。「コースすべてを歩いて帰るのはちょっと…」という人は、帰りのシャトルバスで運転手さんに伝えれば御願ガジュマルの近辺で降ろしてくれるので、そこから歩くだけでOKです。 　精気小屋の前から歩き始め、まず驚くのがユニークな形にのびる大きなガジュマル。ひっそりとした森の中で、大自然の神秘に感じ入ることができます。続いて現れたのは、ソテツ群落。6万本もの大小のソテツが岩の間から林立する様は圧巻です。キラキラ輝く光と静寂に囲まれた道中は、まるで妖精があとを付いてきているかのような非日常の感覚が伴います。と、そこに出現するのが、大トリを飾る御願ガジュマルです。 『御願』とは、沖縄の方言で願いや祈りを表す言葉です。礼拝儀式のことをそう表現する場合もあります。気根を垂らした姿は山の神のようで、気高さを感じます。最初にこのガジュマルを見つけた時に園内のスタッフが撮影をしようとしたところ、どうしても撮れずカメラが2台壊れてしまい、御願をしてようやく撮影できるようになったといいます。それくらい強いパワーを持ったガジュマルなのです。木肌に触れてみると、なんだかエネルギーをもらったような気がします。現在は撮影してもカメラが壊れることはないので、ご安心を。 　偉大なる大自然に包まれた聖地、大石林山。その魅力を、ぜひ体で、心で感じてみてください。