山鹿温泉のツウな巡り方を 現地編集部が徹底ガイド
九州の“美肌の湯”として親しまれている山鹿温泉。江戸時代、参勤交代の宿場町として豊前街道を中心に栄えた町は情緒溢れていて趣深く、かつて市民が毎日利用した「町湯」という公衆浴場が現在も多く残っています。山鹿を訪れたなら、温泉で汗を流し、山鹿の伝統に触れ、おいしいもので満たされたい。山鹿温泉のツウな巡り方を案内します。
![平成24年(2012)に再建された「さくら湯」 平成24年(2012)に再建された「さくら湯」]()
平安時代の文献『和名抄(わみょうしょう)』にも登場する山鹿は、熊本を代表する温泉地の一つ。湯量が豊富なことから、“山鹿千軒たらいなし”(洗濯するのにさえたらいを使わず、掛け流しの湯を使う意)と謳われたこともある。起源は約800年前と古く、保元の乱に敗れて下ってきた宇野親治(うのちかはる)が保元2年(1157)、手負いの鹿が湯浴みをして傷を癒やしている姿を見て、温泉を発見したと伝えられている。
現在も、昔の面影を残す共同浴場や温泉旅館が点在。まろやかな肌ざわりの湯が楽しめるのはもちろん、江戸時代に交易の中継地や参勤交代の道として栄えた豊前街道を中心に広がる情緒あふれる町並みも魅力だ。
達人が語る 山鹿温泉の魅力
![昭和48年(1973)、解体直前の「さくら湯」の様子 昭和48年(1973)、解体直前の「さくら湯」]()
山鹿の魅力といえば、真っ先に思い浮かぶのが温泉。平安時代から温泉郷として知られる山鹿の湯は、わずかにラジウムを含んだ弱アルカリ性(PH9.4~9.7)。無色透明でくせのない泉質で知られ、とろとろと柔らかな肌触りをしている。また、源泉は40℃前後と温度が低いため、長湯しても湯あたりしにくい。
そんな良質の温泉を持つ山鹿の町には、江戸時代の御殿湯を起源とする「さくら湯」をはじめ、共同浴場や温泉旅館が点在している。さくら湯は細川藩の御茶屋に端を発し、明治初期の大改修以降、改築と改修を重ねながら昭和48年(1973)に一度取り壊されたが、平成24年(2012)11月、見事によみがえった。柱と梁の軸組み工法、黄土漆喰や紅柄漆喰による化粧壁など、日本古来の伝統工法で、明治期の雰囲気が忠実に再現されている。
この再生事業では、外観は昭和48年(1973)の解体前、内観は昭和33年(1958)の改修前の姿に。館内には貴賓客が使用したという「龍の湯」や、その休憩室として使われた「池の間」、屋根の箱棟(はこむね)に開けられた湯気抜き用の穴などを見ることができる。観光案内所や温泉資料室も併設されているので、山鹿観光の拠点として、旅のスタートにふさわしい場所といえる。
人情あふれる公衆浴場でまったり
![地元客や温泉通でにぎわう山鹿の公衆浴場 地元客や温泉通でにぎわう山鹿の公衆浴場]()
山鹿の公衆浴場や温泉旅館には老舗が多く、昔ながらの温泉町風情を楽しめる。ビギナーでも訪れやすい立ち寄り湯も多くあるが、せっかくなら地元の人間だからこそ知っているような公衆浴場の魅力も知ってほしい。
吉田川沿いにある「熊入温泉センター」は、素朴なしつらえと優れた泉質の公衆浴場で、地元の常連客が絶えず訪れている。日光が降り注ぐ浴室には、温度ごとに分かれた浴槽が。一見すると寂しげな外観なのだが、ぜひ勇気を出して足を踏み入れてほしい。体のすみずみまで染み渡るような優しい湯と、気取らない雰囲気に、身も心も癒やされるはずだ。
歴史浪漫の道をぶらり散策
![山鹿には江戸時代から昭和初期の木造建築が多数現存する 山鹿には江戸時代から昭和初期の木造建築が多数現存する]()
山鹿にはもう一つ、忘れてはならない魅力がある。それは、江戸時代には宿場町として、明治~昭和初期にかけては交易の中継地として栄えた歴史浪漫あふれる町並みだ。中でも参勤交代の道としてにぎわい、かの天璋院篤姫も旅したといわれる豊前街道は、いにしえの面影を今に伝える山鹿のメインストリートだ。
豊前街道を湯あがりにぶらり散策すれば、京都の町屋を思わせる間口の狭い商家や、100年以上の歴史を持つ造り酒屋、明治時代に地元の実業家集団・旦那衆が私財を投げ打って建築した芝居小屋「八千代座」などが立ち並ぶ。これらの歴史ある建築物には見学可能なものが多く、「米米惣門ツアー」や「八千代座見学」、「山鹿旅先案内人の会ボランティアガイドツアー」など、地元ガイドと一緒に巡るツアーもある。より深く知りたければ、ツアーの利用がおすすめだ。
山鹿の町は、熊本市内に続いて県内で2番目に電話が引かれたほど、商業の町としてにぎわっていた。石畳の街道や小路(しゅうじ)を浴衣で歩きながら、当時のざわめきに耳を澄ませてほしい。
灯籠の明かりの幻想的な風景に浸る
![闇夜に灯る和傘や竹灯りが美しい「山鹿灯籠浪漫・百華百彩」 闇夜に灯る和傘や竹灯りが美しい「山鹿灯籠浪漫・百華百彩」]()
山鹿では、毎年8月15日~8月17日の期間に行われる「山鹿灯籠まつり」や、2月に街道沿いを和傘や竹灯りが照らす「山鹿灯籠浪漫・百華百彩」など、灯籠の光にフォーカスした祭りが名物となっている。特に夏の風物詩である山鹿灯籠まつりでは、灯籠の光と踊り子の優美な舞いが、“よへほ(=酔いなさい、ほら)”の調べにのって温泉街を包み込む。ハイライトともいえる「千人灯籠踊り」では、光の輪が幾重にも重なるさまが観る者を幻想の世界へと誘う。