鵜戸神宮 神秘の神社を現地編集部が徹底ガイド
日南海岸国定公園の景色の美しい海岸線沿い、日向灘に面した神秘的な洞窟の中に、あざやかな朱塗りの本殿が鎮座する「鵜戸神宮」。昔から、「鵜戸さん」と呼ばれ、夫婦円満、安産祈願の御利益があると親しまれています。広い境内には、日向神話を彷彿とさせる見所がたくさんあります。
![鳥居を抜け、楼門から社殿に向かう 鳥居を抜け、楼門から社殿に向かう]()
宮崎県日南市の北東部に位置する鵜戸神宮。「彦火火出見尊(ヒコホホデミノミコト)」(いわゆる“山幸彦”)の息子である「日子波限建鵜草葺不合命(ヒコナギサタケウガヤフキアエズノミコト)」を主祭神とし、地元では“鵜戸さん”の名で親しまれる。
山幸彦と結ばれた豊玉姫命(トヨタマヒメノミコト)は、この地で御子(みこ)を出産した。父の山幸彦が急いで産殿を造っていたとき、鵜の羽で屋根をふき終わらないうちに誕生したことから、生まれた子は「ウガヤフキアエズ」という御名になったという。
この伝説のため、鵜戸神宮は縁結びや子授け、安産などの御利益で人々の信仰を集めてきたのだ。
取材/宮崎の出版社「鉱脈社」、平成27年(2015)5月
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青と朱と緑の三色を楽しむ絶景、鵜戸神宮参道
![海の青と朱柵が見事なコントラストを成す本殿前 海の青と朱柵が見事なコントラストを成す本殿前]()
日向灘に面した岬に位置する鵜戸神宮は、日南海岸きっての観光名所の一つ。断崖絶壁に沿う玉砂利の参道に立つと、楼門の右手に青い水平線が広がる。門と柵の鮮やかな朱色と、周囲に生えるソテツや南国植物の緑。
年間を通じて国内外から多くの参拝客が訪れるが、ほとんどの参拝客は、この風景を写真に収めようとカメラを構える。天気が良い日の眺めはもちろん素晴らしいが、ここは奇岩に囲まれた断崖絶壁の上。実は波の荒い日の撮影もおすすめで、白い波しぶきが独特の風情を醸し出す。
楼門を抜けると、右に左にと緩やかなカーブの参道が続き、「千鳥橋」と「玉橋」の二つの太鼓橋の先に、本殿へと“下る”階段が見えてくる。鵜戸神宮は、国内でも珍しい“階段を下りて参拝する神社”なのだ。
神話に描かれた洞窟内の本殿をぐるり
![洞窟内には厳かで壮麗な姿の本殿 洞窟内には厳かで壮麗な姿の本殿]()
神話では、山幸彦が海宮(わたつみのみや)から戻って産屋を建て、豊玉姫命がこの地で御子を生んだという。本殿は海の真際、険しい岩肌の横に開いた1000平方メートルほどの洞窟内に鎮座する。岩肌から滴り響く水音や、ひんやりとした空気も相まって、県内屈指のスピリチュアル・スポットとも称される。
本殿裏側には、主祭神誕生の際に使われたとされる「産湯の跡」や、出産後に海宮に戻る母・豊玉姫命が、我が子への愛情と健やかな成長を願って両乳房を岩に貼り付けたとされる「お乳岩」などが並ぶ。
参拝客はお参り後、左回りで本殿をぐるりと回るのが習わし。お乳岩から滴り落ちる石清水「お乳水」はあめに加工され、神宮内で販売されている。妊婦がこのあめを食べると母乳がよく出て、赤ちゃんが健やかに成長するという言い伝えから、産後のお宮参りでお守りとして購入していく親子の姿も見られる。
願いを込めて投げる運玉で、運試し
![本殿前の崖下すぐには、さまざまな形の岩礁が並ぶ 本殿前の崖下すぐには、さまざまな形の岩礁が並ぶ]()
参道から本殿へ向かう途中、階段下の広場では、参拝を終えた人々が海に何かを投げている姿が見られる。これが鵜戸神宮の名物「運玉投げ」だ。
波しぶきに洗われる大小さまざまな岩礁のうち、一番手前にある亀のような岩が「霊石 亀石(かめいし)」と呼ばれ、豊玉姫命を海宮から運んできた亀が姿を変えたものだと伝えられる。この亀石の背中にある、およそ60センチ四方の枡形のくぼみめがけて粘土を素焼きにした「運玉」を投げ、入れば願いが叶うという。
男性は左手で、女性は右手で投げ入れるが、近いように見えて意外と難しく、うまくくぼみに入れられた時の爽快さはひとしおだ。また最近ではインターネットなどで、亀石の近くに別のハート型のくぼみがあると話題になっている。縁結びの神社にあるハートだけに、御利益があるかもしれない。
鵜戸神宮の神使は、意外にも……
![お守りや御朱印帳の販売所 お守りや御朱印帳の販売所]()
ところで、「神使(しんし)」という言葉をご存じだろうか。神使とは、神道において神の心を代行して現世と接触する使者の動物のことで、稲荷神社のキツネや、天満宮のウシが知られる。ほかにも、カメや白ヘビなどを神使とする神社もある。
鵜戸神宮の神使と聞くと、カメと思うかもしれないが、実はウサギだ。主祭神・鵜草葺不合命の「鵜」が「卯」となり、「兎」となったという説もある。由縁は第十代崇神天皇のころまでさかのぼるが、現在も毎月、初の卯の日には縁日祭が奉仕されている。本殿裏側には病気平癒・開運・飛翔などを願う「撫でうさぎ」が置かれ、ウサギをモチーフにした御朱印帳も授与されている。
“馬にゆられ鵜戸さん参り” 江戸と明治の新婚旅行
![長年にわたる人通りで擦り減った参拝路 長年にわたる人通りで擦り減った参拝路]()
縁結びや安産、育児、海上安全などの御利益があることから、鵜戸神宮には昔から夫婦や家族での参拝が多い。江戸中期から明治の中頃までは遠方から馬で参拝する人も多く、宮崎の春の風物詩として、夫婦で鵜戸神宮へ参拝するさまは「シャンシャン馬道中唄」として歌われた。
当時、鵜戸神宮までの道のりは“日向七浦七峠(ひゅうがななうらななとうげ)”と称されるほど険しかったという。御利益にあずかろうという新婚夫婦は、花嫁を馬にのせ、花婿が手綱を取って鵜戸神宮へ参拝したのだ。
「シャンシャン」とは、馬の首にかけた鈴の音。歌中に「結うたる髪も 馬にゆられてみだれ髪」とあるように、鵜戸神宮参拝の道のりは困難なものだった。参拝路の階段の石を見ると、長年の人通りで中央の部分が擦り減っているのがわかる。同じ石の上を、時の流れに思いをはせながら、踏みしめてほしい。
現在は毎年3月下旬ごろに、シャンシャン馬道中鵜戸参りを再現する行事や、民謡大会などが行われている。