屋久島トレッキングで縄文杉に会う
樹齢幾千年の巨樹。長距離トレッキングで、屋久島のカリスマ・「縄文杉」に会いに行く。
![深い森の中で生き続ける縄文杉。名実共に屋久島のシンボルだ 深い森の中で生き続ける縄文杉。名実共に屋久島のシンボルだ]()
屋久島では、樹齢1000年を超える杉を「屋久杉」と呼ぶ。その中の1本が「縄文杉」だ。単に観光で屋久杉を見てみたいと思えば、車で行ける樹もあるし、手軽に散策できる森もある。しかし、この縄文杉に会いたいと思ったら、往復22キロ・約10時間という長い距離を歩かなければ、その姿を見ることができない。山道を歩き、体力を使い、大雨に打たれることもある。それなりの準備も必要だ。普通の観光旅行とは、ひと味もふた味も違う。
それでも、深い森の真ん中に立つこの巨木は、多くの人を惹きつけてやまない。体が疲れ切っても顔は笑顔になっている。これが屋久島の遊び方だ。実際に歩かなければ体感はできないことは承知だが、その魅力を少しでも伝えられるよう、言葉と写真で紹介する。
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屋久島トレッキングの開始。線路は続くどこまでも
![平らで歩きやすいものの、距離は長い 平らで歩きやすいものの、距離は長い]()
登山口に着くと、まず目に入ってくるのが使い古された線路。屋久島というと“原生林”のイメージが強いが、高度経済成長期には、屋久杉が大量伐採されていた。その木材を運んだのがこのトロッコ道だ。登山道もこの線路で、平らで歩きやすいものの単調な道のりが続く。登山道にあるトイレの整備などのために、今なおトロッコが走る時がある。
登りで3時間も歩いていると眠気が襲ってくることもあるので、トロッコ道はだらだら歩くのではなく、休憩を少なめにしてリズミカルに歩き続けるのが大切だ。終点には登山者用のトイレもある。山道に入るとトイレはないので、ここで済ませておく。また、登山者のペースは人それぞれで足の速い人も多いので、後ろがつっかえないように道を譲ることも登山のマナーだ。
小杉谷事業所跡
![ここは屋久杉伐採の前線基地だった ここは屋久杉伐採の前線基地だった]()
登山口から歩くこと約1時間。小杉谷橋を渡ると、昭和45年(1970)まで人が住んでいた集落跡に到着する ―― 小杉谷事業所跡だ。ここは屋久杉伐採をするために作られた集落で、多い時で540人もの人々が生活をしていた。小中学校もあり、100人以上の生徒がいた。形こそ違うが、昔も今もこの森を人が必要としていることに違いはない。現在、当時の建物はない。若い杉が育っており、塀や階段などには苔が付き、遺跡のようなスポットとなっている。休憩所もあり、ひと息つくことができる。
屋久島最大級の切り株・ウィルソン株
![株の中から上を見上げるとハートが見える 株の中から上を見上げるとハートが見える]()
長いトロッコ道を終え、山道に入ること30分。巨大な切り株が目の前に現れる。大正1年(1912)と大正3年(1914)に2度も来島した植物学者のアーネスト・ヘンリー・ウィルソン博士の名にちなんで付けられた切り株、「ウィルソン株」だ。
辺りには樹齢300年~400年ほどの杉が生い茂り、森としても見応えがある。切り株だけでなく、上を見たり下を見たり、その場の雰囲気も楽しみたい。広場にもなっているので、ほどよい休憩ポイントだ。
ウィルソン株は“ハートの切り株”としても有名。株の中に入ると1カ所だけ切り口がハートに見える場所がある。連休などで混雑する日はハート見たさに長蛇の列ができることもあるが、綺麗なハートの形を写真に撮るのはなかなか難しい。日帰りで行く場合は、帰りにもう1回チャンスがあるので空いている時に挑戦したい。
忘れたくないのは株の中にある祠(ほこら)。ハートに夢中で神様を忘れてしまう人もいるが、森への感謝の気持ちは忘れないようにしよう。
世界自然遺産の森
![世界遺産にふさわしく濃厚な森が続く 世界遺産にふさわしく濃厚な森が続く]()
急斜面を汗だくになって歩き、縄文杉の手前30分からが世界自然遺産登録地域に入る。全島が世界自然遺産ではなく、島の21%、約5分の1が遺産エリア。平成5年(1993)、白神山地とともに日本で初めて世界遺産に登録された。当時は世界遺産という言葉すら日本には広まっていなかった時代だ。観光ばかりが注目される世界遺産だが、屋久島の場合は純粋に自然保護の観点から世界遺産登録へとつながっていった経緯がある。
よく勘違いされることだが、“縄文杉が世界遺産”なのではない。人が住む標高の低い所は沖縄や奄美大島などの亜熱帯の気候で、屋久島最高峰の宮之浦岳(1936メートル)は北海道の平地と同じ亜高山帯。標高ごとに植物が変化していき、小さな島に多様な生態系が凝縮されているのだ。標高の高い山は冬に雪も積もる。“日本の縮図”と呼ばれることもあり、世界自然遺産登録の理由も「生物多様性」が最も注目された。
周辺は無名の屋久杉も多く、登山道以外は人の手が加わっていない森。登山中はつい下ばかりを見て歩きがちだが、歩く速度を少し落として世界レベルの森を味わいたい。
屋久島のカリスマ・縄文杉
![トロッコ道を3時間、山道を2時間、約5時間で縄文杉とご対面 トロッコ道を3時間、山道を2時間、約5時間で縄文杉とご対面]()
時間ばかりを気にすると長くと感じるが、実際は道中の屋久杉や風景も素晴らしく、時間の感覚を忘れるディープな森だ。縄文杉も1本で生きているわけではなく、この深い森の中の1本として生きている。「樹を見て森を見ず」ではないが、樹も森も見て全身で感じたい。
縄文杉は樹から10メートルほど離れた所にある展望デッキから鑑賞する。登山者が樹の根を踏んだり、周りの環境を荒らさないためだ。時間帯によっては混雑する時もあるが、写真を撮る時など周りの登山者にも気を配りたい。
気になる樹齢だが、正確にはわかっていない。2170年とも7200年ともいわれ、諸説がある。しかし正直なところ、縄文杉の前に立つと年齢はどうでもよくなってしまう。時間という概念そのものが人間の尺度の一つであって、樹にとっては重要なことではないだろう。幾度となく風雪に耐え、台風の嵐をくぐり抜け、深い森の中で生きている。自分の足で歩き、縄文杉の前に立った人にしかわからない感覚がそこにある。この存在感が屋久島のシンボルであり、屋久島を訪れる人にとってカリスマ性を持つ理由だろう。