筑前の小京都 秋月 ツウな散策を現地編集部が徹底ガイド
城下町の景観が守られてきた「秋月(あきづき)」。福岡県朝倉市の中心地から北へ約7キロ、のどかな山間の盆地に秋月城の城下町があります。約800年のさまざまな歴史と、山々の自然が調和した美しい景観はまさに“筑前の小京都”。国の重要伝統的建造物群保存地区にも選定され、城址や武家屋敷などが大切に残されています。歴史のロマンを感じる美しい町並みに癒されて。
![約500メートルの桜並木が続く杉の馬場。春は桜色のトンネルに 約500メートルの桜並木が続く杉の馬場。春は桜色のトンネルに]()
福岡県朝倉市の中心地から北へ約7キロ。のどかな山間の盆地に、秋月城の城下町がある。鎌倉時代からこの領地を支配した秋月氏16代、江戸時代から藩主を務めた黒田氏12代の栄華を感じさせる昔ながらの町並み。国の重要伝統的建造物群保存地区にも選定され、城址や武家屋敷などが大切に残されている。
福岡市街からも行きやすい秋月は、桜や紅葉の名所としても知られるが、この町の魅力は春や秋の華やかな景色だけでは語れない。日本の原風景に出合える福岡の観光地・秋月の魅力を、この地で生まれ育った達人に聞いた。
取材/江頭 睦美、平成26年(2014)6月
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秋月城址をはじめとする歴史的スポットをたどる
![二度の移築を経て、現在は垂裕神社の神門となっている「黒門」 二度の移築を経て、現在は垂裕神社の神門となっている「黒門」]()
1時間ほどもあれば、主な歴史的スポットを徒歩で巡ることができる福岡の観光地・秋月(あきづき)。その代表的な史跡が、秋月城址だ。最も古いのは「黒門」で、もともとは13世紀初めに秋月氏が築いた古処山城(こしょさんじょう)の裏門だったという。その後、17世紀には、黒田氏が再建した秋月城の表門として移築される。この黒門は、いわば秋月氏16代と黒田氏12代の歴史を見つめてきた史跡だ。
歴代の領主・藩主の中でも、達人・井上さんが特に注目するのは、秋月種実(たねざね)という人物だという。
「種実は、秋月氏の時代で最も領地を広げた16代目の領主で、九州でも有力な戦国大名でした。キリシタンを保護していたこともあるし、僕のイメージでは“ミニ信長”という感じ。種実については史跡も記録もあまり残っていないから、余計に想像がふくらむんです」(井上さん)
秋月氏の時代は実質、この種実の代に、豊臣秀吉の九州征伐によって幕を下ろすことになる。このとき、重臣の恵利内蔵助暢尭(えりくらのすけのぶたか)は、秀吉軍と戦うことは無謀だと和議を進言したが聞き入れられず、自ら命を絶って主君の種実をいさめようとした。そんな悲劇の忠臣を祭るのが、「鳴渡観音堂(なるとかんのうどう)」なのだという。
川岸や田んぼに積まれた石垣。ここから見えてくる歴史がある
![秋月のどこにでもある石垣。石の積み方などから時代を推測できる 秋月のどこにでもある石垣。石の積み方などから時代を推測できる]()
秋月の町を歩くと、川岸や田んぼの傍らなど、いたる所に苔むした石垣が見られる。「ここで生まれ育った僕にとっては当たり前の景色。でもあるとき、すごく歴史の深いものなんじゃないかと気づいたんですよ」と語る井上さんは現在、秋月コミュニティ景観委員会で石垣について学ぶ学習会を立ち上げ、専門的に研究する大学教授の協力も得ながら石垣の研究を進めている。
「目鏡橋周辺の護岸にも石垣があるんですが、橋脚を守りながら川の水を通すように、絶妙な角度で石が積まれていることがわかったんです。しかもこの手法は、武田信玄が築いた堤防『信玄堤』に通じるものがあるそうです。石垣を調べることで、また歴史が明らかになっていく。協力してくれている大学教授の先生も、石垣を見せるたびに本当に感激してくれるんですよ。そんな先生の横顔を見ているだけでも楽しいやら、誇らしいやら」(井上さん)
目鏡橋などの建造物よりも、ずっと古い秋月の石垣。秋月の町を歩くときには、江戸初期のものともいわれるこの石垣に、ぜひ注目してほしい。
受け継がれる年中行事。秋月を愛する人たちに守られて
![自身も秋月伝統の手漉き和紙を守りつづける達人、井上賢治さん 自身も秋月伝統の手漉き和紙を守りつづける達人、井上賢治さん]()
さまざまな伝統行事も守られてきた観光地・秋月。中でも達人が「ぜひ体感してほしい」と熱く語るのは、旧・秋月藩から伝わる砲術披露の爆音だ。
「重さが30キロもある鉄砲なので、あたりの空気を揺らすほどの爆音に圧倒されます。体の中の邪気を払ってくれるような気がする、と言う人もいますね。本当にその通りです」と井上さん。
この「林流抱え大筒」は1月・4月・9月・12月と年に4回、披露されている。また、11月に行われる黒田家の年中行事「秋月鎧揃え」も井上さんのおすすめ。甲冑姿の武者行列が町を練り歩く様子を見ていると、江戸時代の秋月藩へ迷い込んだかのような感覚に陥る。
「この行事にちなんで『鎧着初めの儀』も始めました。その時代、家老の家に生まれた男子には、11歳の11月11日に初めて鎧を着る儀式があって、大人になる覚悟をさせていたんですね。これを現代によみがえらせて、11月11日、秋月の小学5年生の男の子に鎧を着せています。子どもたちにも秋月に生まれた誇りと自覚をもってほしいから」(井上さん)
伝統行事でにぎわう日の秋月は、この町で暮らす人々の温かさに満ちている。
春は桜の名所、夏は山々の深緑。日本の原風景に出合える観光地
![小さな路地を一本入れば、この景色。自然豊かな山間の城下町 小さな路地を一本入れば、この景色。自然豊かな山間の城下町]()
秋月の良さは、観光地らしく飾りたてていないところだ。確かに、今も人々の暮らしが営まれている城下町は、観光地としての気負いを全く感じさせない雰囲気。「夏なんて、まさに田舎の夏休みの光景。周囲を山々に囲まれているから、入道雲が絵になりますよね。冬のしんとした雰囲気もいいですよ。雪が降れば、その白と瓦屋根の黒だけの景色になります」と井上さんは言う。
秋月は、春の桜、秋の紅葉の名所としてにぎわう観光地だが、町に静けさが戻る夏や冬に、日本の原風景を見に訪れるのもいい。狭くて見通しの悪い町割も、立ち並ぶ古い建物も、まさに昔のままのもの。だからこそ、いわゆる観光地とは一線を画した特別な雰囲気があるといえる。
史跡めぐりだけにとどまらない福岡・秋月の楽しみ方。半日たっぷり時間をとって、ただ町を歩き、この空気をじっくりと味わう旅をおすすめしたい。