現地編集部が実食した博多うどん10選
博多のうどん店を現地編集部が厳選。中世博多うどんを再現した春月庵や、讃岐うどんを博多風にアレンジした麦衛門、博多で最古参のうどん店であるみやけうどん、ダシ香るごま味噌うどんが評判のうどん杵むら、コスパ最強の本格手打ちうどんの葉隠うどん、カルビぶっかけうどんで大行列となっているえびすやうどん、創作うどんダイニングの弥栄、だしとの相性抜群のうどん麺が人気の恵味うどん、博多を代表する老舗の味の因幡うどん、特大サイズのごぼう天が多くの人を引き込む大地のうどんを紹介します。
![客の目前でゆで上げ、最高のタイミングで提供される福岡のうどん 客の目前でゆで上げ、最高のタイミングで提供される福岡のうどん]()
全国的に有名なうどんといえば、“讃岐うどん”や“稲庭うどん”があるが、実はうどんもそばも発祥は博多といわれている。鎌倉時代に聖一国師(しょういちこくし)という僧侶が宗王朝(中国)へと渡り、うどんやそば、ようかん、まんじゅうなどの製法を博多に持ち帰ったことが始まりだ。
福岡では現在でも、地元で愛される老舗のうどん店から、全く異なるスタイルに挑戦する新店まで、多くのうどん屋がしのぎを削っている。とはいえ、最初から行列必至の老舗店を狙っていくのは、一般客には少しハードルが高いかもしれない。
福岡うどんの基本スタイルとともに、まずは気軽に味わえるおすすめから紹介しよう。
取材/Photo Office K、平成28年(2016)8月
「うどん」の発祥地、福岡・博多
![承天寺の境内にある“饂飩蕎麦発祥之地”の石碑 承天寺の境内にある“饂飩蕎麦発祥之地”の石碑]()
一般的にうどんといえば讃岐、そばは信州などが有名だが、うどんもそばも、そしてまんじゅうも、発祥の地は博多とされる。博多祇園山笠発祥の寺として知られる博多駅前の「承天寺(じょうてんじ)」の境内には、“饂飩蕎麦発祥之地(うどんそばはっしょうのち)”の石碑が立っているほどだ。
全ての始まりは、承天寺を開いた僧侶・聖一国師(しょういちこくし)が仁治2年(1241)に中国から帰国した際、製粉の技術を持ち帰ったこと。当時は多くの僧侶たちが博多(那の津)から仏教修行のために中国へ向かい、教典とともに多くの書物や技術を持ち帰ってきたのだという。
聖一国師のおかげで、日本ではきめ細かい粉が作られるようになり、うどんやそば、まんじゅうなどの粉物食文化が全国に広まっていった。また、定番の“年越しそば”も、もとは博多の謝国明が町民に年末に振る舞ったもので、翌年に多くの人に福が来たことから“福そば”として定着したといわれている。
“福岡うどん”の特徴は、こしのないふわふわ麺
![麺が柔らかく“時間が経つと増える”とまでいわれる牧のうどん 麺が柔らかく“時間が経つと増える”とまでいわれる牧のうどん]()
福岡うどんの一番の特徴は、柔らかい麺、そして澄んだつゆ。こしが強い他の地域のうどんと比べると麺が非常に柔らかく、“こしがない”。しかし、このふわふわとした柔らかな食感が、すっきりとした味わいのつゆと相性がいい。
福岡うどんが柔らかい麺になったのは、忙しい博多の商人たちに素早くうどんを提供するため、あらかじめ麺をゆでておいたからだといわれる。スープは、アゴ(トビウオ)やイリコ、鰹節、昆布などの魚介類をぜいたくに使っただしに、薄口しょうゆを加えたやさしい味が一般的だ。
そんな福岡うどんらしい特徴を味わえる店が「牧のうどん」だ。“食べても食べてもなくならないうどん”としてメディアで取り上げられることも多い有名店で、ふわふわとした柔らか麺がどんどんスープを吸っていくので、スープの入ったやかんとともに提供される。
牧のうどんの薄味スープと麺は、一緒にすするとちょうどいいバランスになる。また、食べ切れるか心配な小食の人は、麺少なめを注文すると安心だ。逆にたくさん食べたい向きには、サイドメニューの「かしわご飯」がおすすめ。
福岡のうどんは、もともとは間食や夜食として広まった“ファーストフード”のような存在。しかし、早さだけでなくおいしさまで追求するのが、食にうるさい博多流。福岡を訪れた際には、ラーメンやもつ鍋などのワイルドなグルメだけでなく、あっさりとした福岡うどんも選択肢に加えてほしい。
丸天にゴボ天 ―― 福岡うどんを飾るトッピングたち
![「資さんうどん」の一番人気メニューは、右下の肉ゴボウうどんだ 「資さんうどん」の一番人気メニューは、右下の肉ゴボウうどんだ]()
福岡のうどんの特徴としては、麺の柔らかさに加えてトッピングが挙げられる。「丸天(まるてん)」は、その名の通り“丸い形の天ぷら”で、魚の練り物を揚げたもの。博多ではこれを“天ぷら”と呼び、四角に揚げたものは角天と呼ばれる。
天ぷらというと、全国的には海老などにころもをつけて揚げたものが一般的だが、福岡ではこれと丸天の両方を天ぷらと呼ぶ。もちろん、うどんの具にも両方の天ぷらがあり、ころもをつけた天ぷらもメニューに並んでいるので注文できる。
丸天と並ぶ福岡うどんの定番トッピングは、「ゴボ天」。そのまま“ごぼうの天ぷら”だが、こちらはころもで揚げたもの。ごぼうの切り方に店ごとの多少の違いはあるが、基本的には大きめに切られたごぼうが使われ、ごりごりとした食感を味わえるものが多い。
ゴボ天だけで物足りないという場合には、多くの男性客が注文する“肉ごぼう”を頼んでみよう。甘辛く煮こまれた牛肉とのダブルトッピングなら、食べごたえも満足感も十分だ。
福岡うどんに吹く新しい風 ―― 「元祖・肉肉うどん」とは?
![ラーメン屋の間に店を構える「元祖・肉肉うどん 博多・中州店」 ラーメン屋の間に店を構える「元祖・肉肉うどん 博多・中州店」]()
“うどん発祥の地”というだけあり、福岡の街には多くのうどん屋がひしめいているが、最近では一般的な福岡うどんとは毛色の異なるうどんも登場してきている。その一つが、こしのある手打ち麺をしょうゆベースの黒いスープとともに味わう「元祖・肉肉うどん」だ。
達人・有馬さんが働く元祖・肉肉うどんのルーツは、北九州の小倉にある。戦後、貧しさから食材が十分に手に入らない時代に、当時は食べられることのなかった牛のほほ肉を甘辛く煮こんで使ったうどんが広まったという。そんな小倉発のご当地うどんが独自の発展を遂げたのが、この元祖・肉肉うどんなのだ。
麺の上には、ごろごろと角切りの大きな牛肉がのせられ、中央にはしょうがが添えられる。いわゆる福岡うどんとは全く違う。とろとろに煮込まれたサイコロステーキのような牛肉は、生で仕入れた牛ほほ肉をボイルして甘くじっくりと煮込んだもので、毎日4時間以上かけて作られている。
また、スープも毎日作られており、こちらはしょうゆをベースに椎茸や昆布、イリコなどのだしを使用、隠し味に牛ほほ肉のスープを加えている。牛ほほ肉の脂身は程よく処理されているので、こってりとしているように見えて、味は比較的あっさり。さらにトッピングのしょうがが爽やかさを加える。牛ほほ肉にはコラーゲンが多く含まれているので、あっさりさとあわせて女性ファンも多い。
福岡うどんから、自分のお気に入りを見つけよう
![元祖・肉肉うどんでは、“そばの替え玉”まである 元祖・肉肉うどんでは、“そばの替え玉”まである]()
麺に特徴のある福岡うどんだが、店によっては麺の硬さや太さを選ぶことができたり、“替え玉”を注文できたりする。福岡ならではのラーメン文化と融合しているところも興味深い。ちなみに元祖・肉肉うどんでは、替え玉にうどんだけでなくそばまであり、一杯でうどんもそばも味わえるというから驚く。
ここで紹介した以外にも、老舗の名店から行列必至の人気店まで、福岡うどんの選択肢はとにかく幅が広い。まずは手軽に味わえる店から始めて、自分のお気に入りの一杯にたどり着いてほしい。