山鹿温泉のツウな巡り方を
現地編集部が徹底ガイド

平安時代の文献『和名抄（わみょうしょう）』にも登場する山鹿は、熊本を代表する温泉地のひとつ。湯量が豊富なことから、“山鹿千軒たらいなし”（洗濯するのにさえたらいを使わず、掛け流しの湯を使う意）と謳われたこともあります。起源は約800年前と古く、保元の乱に敗れて下ってきた宇野親治（うのちかはる）が保元2年（1157）、手負いの鹿が湯浴みをして傷を癒やしている姿を見て、温泉を発見したと伝えられています。

山鹿には、かつて市民が毎日利用した「町湯」という公衆浴場や温泉旅館が現在も点在しており、観光客にはもちろん、地元の人にも日常的に親しまれています。古くから“美人の湯”と称される湯は、とろりとしていて柔らかで、まろやかな肌ざわりが特徴的。

山鹿のシンボルとも言える公衆浴場「さくら湯」は、明治初期の大改修以降、市民温泉として愛されてきました。江戸時代の建築様式を可能な限り再現し、現代には貴重な木造の浴場や独特の屋根の形が残り、圧巻の佇まいです。

今でも立ち寄り湯として利用できますが、入口は大通り側ではなく、その反対側の北側で、こちらが建物の正面になります。建物内には貴賓客が使用した「龍の湯」があり、見学することも可能。天井一面に描かれた龍の絵は必見です。さくら湯前には「湯の端公園」があり、足湯スポットにもなっており、街歩きの疲れを癒すのにおすすめ。

山鹿の数ある温泉施設の中でも、源泉掛け流しの温泉で定評高いのが「温泉の郷 山鹿どんぐり村」。朝10時にオープンし翌朝7時半までの営業で、深夜・早朝でもふらりと立ち寄れることから、県外からのリピーターも多い。アルカリ性弱単純弱ラドンの泉質はとろっとろで、男湯・女湯ともに大きな露天風呂を備えています。

住宅街にひっそりと佇む「宮苑温泉」は、13室の貸し切り湯と大浴場、流水歩行浴を備える温泉施設。シャワーまで源泉掛け流しで、大浴場は300円（大人）とリーズナブル。貸し切り湯は露天風呂なし（800円／5名まで60分）と露天風呂あり（1500円／5名まで60分）のタイプがあり、露天風呂ありは平日に限って17時まで200円引きというお得なサービスも。貸し切り湯は広々としていてファミリーにも好評です。

そのほか、レトロな大浴場とアットホームなおもてなしが魅力の「サンパレス松坂」や、バラエティ豊かな湯船がそろう「ならのさこ温泉 いやしの湯」などもありますよ。

■温泉の郷 山鹿どんぐり村
【住所】熊本県山鹿市久原3905
【営業時間】10時～翌7時30分
【定休日】なし
【問い合わせ先（TEL）】0968-44-2939

■宮苑温泉
【住所】熊本県山鹿市下吉田店田646-2
【営業時間】12時～24時（土日祝は10時～24時）
【定休日】なし
【問い合わせ先（TEL）】0968-43-3987

豊前街道を中心に栄えた山鹿には、今なお古くからの町並みが残り、散策するだけでも楽しい。でもせっかく訪れたのなら、山鹿ならではの体験も、ぜひ堪能したいものです。

「染・手織工房かみや」は、着物の帯をリメイクしたバッグや手作り作家の作品などを販売するブティックですが、山鹿ならではの「泥染め」を体験できるスポットとしても知られています。店主が考案した染め物体験は、山鹿温泉と不動岩の麓から採れる赤土を使用。自然の材料のみで仕上げるため、上品で温かみのある色合いが特徴的です。体験はストールが人気ですが、ハンカチなら1時間程度と手軽で、金額も1500円とリーズナブル。

山鹿を語るうえで欠かせないのが山鹿伝統工芸品の「山鹿灯篭」。「山鹿灯篭民芸館」は、和紙と少量ののりだけで作る山鹿灯篭の名作を展示しています。山鹿灯篭を制作する灯籠師による制作実演も見学でき、事前に予約すればミニ灯篭作りの体験も可能（3000円／90分程度）。もともとは大正時代の銀行だったという歴史ある建物も必見です。ちなみに、建物天井には「龍の絵」が描かれていますが、このレプリカが「さくら湯」の「龍の湯」に飾られています。

温泉と言えば卓球が定番ですが、実は山鹿ではちょっと変わった卓球を楽しめます。「灯篭温泉卓球」と言って、浴衣を洋服の上から羽織り、頭には本物の山鹿金灯篭を載せて、卓球をするのです。場所は、山鹿のシンボル的スポットのさくら湯前。歴史ある建物の前で、伝統工芸品を着用しての卓球は、風情があって写真映えも抜群。1台500円で4人まで体験できるので、興味のある人は「さくら湯観光案内所」に問い合わせてみましょう（価格など改訂する可能性があるので要確認）。

豊前街道に残る古きよき町を短い時間でたっぷり楽しむなら、「米米惣門ツアー」がおすすめ。酒蔵、米蔵、手焼きの煎餅屋などを約1時間で回り、地元案内人ならではの面白い裏話とともに見学できます。移動距離は約200メートルと短く、参加料は600円でお土産付き。リピーターも多い人気のツアーです。申し込みは山鹿温泉観光協会へ。豊前街道を彩る歴史ある芝居小屋「八千代座」や、やまが人力車での小路探索にもでかけてみてください。

■灯篭温泉卓球
【住所】熊本県山鹿市山鹿1-1
【定休日】なし
【料金】15分500円（※1台、4人まで）
【問い合わせ先（TEL）】0968-43-0111（さくら湯観光案内所）

■米米惣門ツアー
【定休日】水曜
【料金】600円（お土産付き）
【問い合わせ先（TEL）】0968-43-2952（山鹿温泉観光協会）

豊前街道には飲食店やお土産屋が立ち並んでいますが、なかでも地元おすすめのスポットを紹介します。

「火の国ゆるり庵」は60年ほど前に大衆食堂として開店し、現在の場所に移転して約10年になるという老舗食堂。観光客だけでなく、地元でも居酒屋、宴会場所としてもなじみのある店です。食材はできる限り地産地消にこだわり、名物カレーのほか、地元の郷土料理も提供しています。

名物の馬カレー「豊前街道石畳カレー」は、2日間かけてじっくり煮込んだカレーに、刺身でも食べられる馬肉のたたきと地元野菜の天婦羅をトッピングしたボリュームたっぷりの一品。サラダとデザート付きで1300円というのもうれしい。

山鹿のお土産で定番なのが「燈籠もなか」。山鹿の伝統工芸品・山鹿灯篭の金灯籠を模った最中で、現在は老舗和菓子店3店舗で作られています。それぞれに味や形が微妙に異なりますが、さくら湯前にある「安部英和堂」のはパリッとした皮に、北海道産の小豆たっぷりで優しい味わい。

そしてもうひとつ、山鹿ならではの「山鹿羊羹」は、山鹿を代表する銘菓でお土産にぴったりです。棒状に丸めたこしあんを牛皮で包んでいるのが特徴的で、米粉を使うため、時間が経っても軟らかく、素朴な味わい。こちらも「上村屋」をはじめとする老舗和菓子店3店舗で作られています。灯籠もなかも山鹿羊羹も、老舗の味を食べ比べするのもいいですね。

今、山鹿の新ブランドとして注目されているのが「山鹿ローカルジーンズ」。山鹿市の温泉旅館「清流荘」の平井社長ら5人が、町おこしと結び付けて立ち上げたデニムブランドで、生地にはヴィンテージものを使用し、山鹿温泉水で洗って仕上げています。その美しい色合いと履き心地が評判で、山鹿温泉でしか手に入らない貴重な逸品。2018年9月に販売されたばかりですが、早くも話題沸騰中で、当初はメンズのみの生産でしたが、レディースの展開も決定。購入すると、飲食店や旅館で割引などのサービスを受けられるので要チェックです。

漫画『美味しんぼ』にも紹介された山鹿の名酒蔵、千代の園酒造などもありますよ。

■火の国 ゆるり庵
【住所】熊本県山鹿市山鹿1619-1
【定休日】不定
【営業時間】17時～22時（LO21時）※ランチは予約のみ
【問い合わせ先（TEL）】0968-43-2346