知床五湖 静謐な湖のネイチャー・ウォーク
知床五湖は、今や知床を訪れた人が必ず立ち寄るといわれるほど人気の観光スポット。知床連山の大パノラマを映し込む、美しい湖の自然を巡る散策。静謐な時が満ちている知床五湖の魅力とその背景を探ってみた。
![空から見た知床五湖。森の中の小さな湖沼群だ 知床五湖空撮]()
かつては無名の沼であった知床五湖。バブル期に知床観光の目玉として整備され人気が沸騰したものの、植生の踏み荒らしなどで環境破壊が進んでいた。世界遺産・知床半島を代表する知床五湖の危機的状況を前に、さまざまな試行錯誤が行われ、平成23年(2011)からは、ヒグマの活動期に合わせたレクチャーの義務づけや利用制限、有料化などの制度が導入された。同時に知床五湖フィールドハウスを中心に、ヒグマ対策が施された高架木道・展望台などの施設が整備され、人にとっても、ヒグマや湖の自然にとっても、理想的な利用スタイルへの模索が進められている。
日本離れした知床連山の美しいビュー・ポイントとして、また個性的な森の散策コースとして、このスポットを楽しむために。知床五湖の魅力とおすすめの楽しみ方を達人に聞いてみた。
取材・文/たびらい編集部 投稿/2016年 5月
知床五湖のおすすめの季節と、その理由
![ミズバショウは知床五湖に春を告げる花 知床のミズバショウ]()
例年、知床五湖は雪がとける4月下旬~晩秋の11月に開放される。どの季節もいいのだが、達人・海老原さんが特におすすめする時季は春だ。5月上旬から6月上旬まで標高の低い所から順にミズバショウの群生が見られる。「この時季は知床連山に残雪が見られ、同時に緑が芽吹いて一気に山が色づくんです」。湖と雪の残る知床連山の美しい対比が見られるのは6月いっぱいが見ごろ。ミズバショウと同時期にはエゾエンゴサクやタチツボスミレなどの花が咲く。
![知床五湖紅葉 知床五湖紅葉]()
▲高架木道から見た紅葉。知床は冷え込みの強い地域だが、見ごろは10月上旬~と道内では一般的な時期だ
では、春以外の見どころとは? 秋の紅葉も見逃せない、と海老原さん。「知床五湖の紅葉は10月上旬~中旬が見ごろですが、きれいな時期はとても限定的なので、そのチャンスを逃さないでくださいね」。理由はミズナラなどの“黄色系”の樹木が多いこと。例えば、札幌の定山渓温泉や大雪地方など、道内でも名高い紅葉スポットは、カエデ・モミジなどの“赤色系”の樹木が多いために鮮やかなくっきりとした美しさがあり、見頃も長いのが特徴的だ。五湖の短い紅葉を満喫するなら、ぜひ知床五湖フィールドハウスに問い合わせを。湖の周辺だけでなく、知床五湖に続く道沿いにはカラマツが多く、11月からは見事な黄金色の景色を望めるので、こちらの紅葉スポットも要チェックだ。
高架木道と地上遊歩道、知床五湖のふたつの歩き方
![往復1.6キロの木道は、バリアフリーでどんな人でも歩きやすい 高架木道]()
知床五湖には大きく分けて「高架木道」と「地上遊歩道」という、ふたつの歩き方がある。フィールドハウスから始まる高架木道は片道800メートル、往復1.6キロの設定ルートだ。こちらは、開園期間中は無料開放されており、勾配も緩やかに設計されているので、車椅子・ベビーカーを押す人でも安心して通行できる。一湖のみを見るルートになるが、約40分ほどで往復できるので観光する時間の限られる人にはこちらがおすすめ。
もうひとつの歩き方「地上遊歩道」は、五湖周辺の自然を目線と同じ高さで観察しながら体感できる。時間を使ってゆっくりとまわりながら、造詣を深めたいという人にすすめたい。海老原さんもイチオシするのがこちらの歩き方だ。この「地上遊歩道」には、フィールドハウスから二湖~一湖を巡り、高架木道を通って再びハウスに戻ってくる約1.6キロの「小ループ」。五湖~四湖~三湖~二湖~一湖という順ですべての湖を巡る約3キロの「大ループ」というコースが設定されている。
より安全に、より楽しく、知床五湖の歩き方
![知識を深めるためにも「地上遊歩道」のガイドツアーはおすすめ 知床五湖のガイドツアー]()
知床五湖が最も美しい5~6月頃は、ヒグマの活動期と重なるため、この時期(5月10日~7月31日)は、プロガイドが同行するツアー以外では「地上遊歩道」を歩くことはできないので要注意。特に6月はヒグマの出現率が高まる。湖周辺に自生するミズバショウの根が彼らの大好物であり、活動期に入った食欲旺盛なヒグマたちがこれを積極的に食べにくるのがその理由だ。
この時期はフィールドハウスで10分ほどのレクチャーを受け、その後、プロガイドとともに湖を歩くツアーに参加することになる。こちらは有料となっており、大ループの場合は大人ひとりで5000円ほどするが、ぜひ利用してみよう。
「プロガイドは一人ひとりが自然に対して確かな知識と細やかなこだわりを持っており、詳しい解説とともに知床五湖の世界を楽しめます。木一本、一匹の虫に対してもガイドごとにこだわりが違うんです」と海老原さん。ガイドなしで大ループを歩く目安はおよそ1時間30分だが、ツアーに参加する場合は、詳しい解説を聞きながら歩くので3時間ほどかかる。まずはツアーに参加し、また別の機会や季節にガイドなしで歩く、というのが海老原さんのおすすめする知床五湖観光スタイル。一度ツアーに参加しておくと知識が深まり、プロガイドの解説を思い出しながら、より一層深い視点で知床五湖を楽しめるのだ。
また、開園~GW終盤の5月9日、夏の8月1日~秋の10月20日も植生保護期というシーズンにあたり、「地上遊歩道」を歩く場合には、クマの活動期同様にフィールドハウスでのレクチャー受講が義務付けられている。
ツウなスポットと厳冬期の「知床五湖エコツアー」
![冬のエコツアーでは、真っ白に染まった「知床連山」も見られる 知床五湖エコツアー]()
このエリアをもっとツウに楽しみたい、という人に達人・海老原さんのおすすめを聞いてみた。その答えは「四湖」。「知床五湖のなかでも四湖は地上遊歩道からは一部分が望めるだけ。奥の方はまったく見渡せず、林道も設定されていないので足を踏み入れることができないんですが、それゆえに神秘的な湖なんです」。また、春の雪解けの時季には四湖と三湖の間に「三・五湖」が出現する。こちらは例年6月までしか見られない特別な水辺だ。
昨年(2015)から厳冬期の知床五湖を巡るスノーシューを使用したアクティビティツアー「知床五湖エコツアー」も始まった。このツアーでは、冬季立ち入り禁止となっていた知床五湖を開き、夏には歩けない湿地帯巡りをしたり、凍った湖の上を歩いたりして楽しめる。斜里側のオホーツク海に接岸する流氷を見られるのも特色だ。
知床五湖周辺でお手軽ランチを楽しもう
![「エゾシカバーガー」はフィールドハウス横の売店で買える エゾシカバーガー]()
"最後に、知床五湖で食べられるグルメ情報を。フィールドハウス横にある売店には、地域の土産物もあり、そこで食べられる名物が「エゾシカバーガー」。この売店の「ユートピアFOOD&SHOP」は知床五湖から下に9キロほど下った「知床自然センター」にも入っており、地場産豚肉や鶏肉、野菜をふんだんに使用したスープカレーも提供している。ここで昼ご飯を食べてから、午後に「フレペの滝」へと向かうのもおすすめのコースだ。
歩き方~グルメまで。知床五湖・斜里町のおすすめ情報
知床五湖の歩き方ガイド
知床五湖の散策コースは大きく分けると「高架木道」と「地上遊歩道」のふたつに分けられる。それぞれのコースによって見所も違うので、旅のスケジュールで選びたい。
- おすすめポイント
- 大ループは、地上遊歩道を通って五つの湖をすべて巡るコース。全周約3キロで、見学時間の目安はガイド付きで約3時間。知床五湖の自然の中をじっくりと散策できる、最もおすすめのコースだ。小ループは全周は約1.6キロ、見学時間の目安は約40分。短い時間で森の散策と高架木道からの眺望を楽しめる欲張りなコース。クマよけ対策が徹底された高架木道コースは、全期間、無料で開放され利用手続きも不要。お手軽に知床五湖の魅力を体験できるコースだ。
知床五湖の人気の花
本州ならば高山帯でしか出合えない、貴重な植物が知床では普通に咲いている。知床五湖は湿地帯の植物を中心に多彩な花が楽しめる。
- おすすめポイント
- ミズバショウは知床に春を告げる花だ。また、この花の根はヒグマの大好物であり、活動期の訪れを知られる“サイン”ともなるので注意して欲しい花である。エゾエンゴサクも知床の春の花の代表であり、淡い紫の可憐な花を雪解け跡に見ることができる。ネムロコウホネは耳馴染みの少ない花だが、知床五湖ではよく見かける花。蓮の仲間で、夏に小さくて可愛い黄色の花を咲かせる。
知床・ウトログルメのおすすめスポット
知床五湖からウトロ地区へ下って、グルメを楽しむのもおすすめコース。新鮮な魚介類など、地場産食材を提供する知床・ウトロの店舗を紹介。
- おすすめポイント
- 知床・ウトロのグルメは何と言っても新鮮な魚介類が自慢。「ウトロ漁協婦人部食堂」では旬の魚を使った定食や海鮮丼が人気で、港のすぐそばにある店の雰囲気も知床らしい。地元住民も通う「波飛沫」や「ボンズホーム」もおすすめだ。