函館を市電でめぐる旅。穴場スポットを楽しんでみない?
「函館市電」は、温泉地・湯の川エリアから函館山方面、観光スポットが集まる西部地区方面まで走っている。映画やドラマなどにもたびたび登場し、車両自体の人気も高い。函館市電に携わって約20年を数える達人が、函館市電で行ける穴場スポットから車両の楽しみ方までを紹介する。
![左が「箱館ハイカラ號」、右が「らっくる号」 左が「箱館ハイカラ號」、右が「らっくる号」]()
地元客だけではなく、観光客の「足」としても利用されている路面電車「函館市電」。函館の主要観光エリアを網羅した路線と、時間帯にもよるが、約6分おき(「十字街」で分岐してからは約12分おき)という短い間隔で運行しているのも魅力。路面電車が走っているのは、北海道では札幌と函館のみ。マイカーよりもゆっくりと流れる車窓からの景色や、レトロな「箱館ハイカラ號」、最新の「らっくる号」といった車両も人気。最近では「交通手段」としてだけではなく、車両そのものを楽しむ人も多い。
ライター/函館・みなみ北海道観光情報誌「函館comodo」編集部 壁下優子
投稿/2015年 7月
東京以北では最古の路面電車
![多くの人々に利用されてきた函館市電 多くの人々に利用されてきた函館市電]()
2013年、100周年を迎えた函館市電。これは創業からではなく、電車として走り出してからの100年。函館市電のはじまりは、1897年に運行を開始した馬車鉄道なのだ。
当時、市街地の移動手段は人力車が主流だった。しかし、未舗装の道路では乗り心地が悪く運賃も高かったことから、レールの上を走る馬車鉄道が広まった。本州各地で路面電車が走り出すと、函館でもその要望が高まることに。そして1913年には東京以北で最も早く路面電車の運行が開始されたのだった。
当初は民間企業の運営だったが、公益性の高さを維持するため、紆余曲折を経て1943年市営化。1968年、それまで車掌と運転士のツーマン運行だったのを、運転士のみのワンマン運行とした。車両のフロント部分に掲示されている「ワンマン」は、運転士のみが乗務しているという意味。全盛期にはJR五稜郭駅方面や、東雲町など17.949キロを走っていたが、マイカーの普及などに伴い路線を縮小。現在の営業路線は10.9キロとなっている。
なお函館市電のレール幅は、全国的にも珍しい、1372ミリメートル。このレール幅は、ほかには都電と東急世田谷線だけ。都電の車両をそのまま走らせることができるため、都電の中古車を購入したこともある。1970年、15年間都電として活躍した東京都電7000形を搬入。2010年に引退し、現在は函館空港から車で約5分の、函館牛乳(函館酪農公社)で保存されている。
主要観光スポットへのアクセスに便利な「函館市電」
![グリーンの相馬株式会社と電車は写真の被写体としても人気 グリーンの相馬株式会社と電車は写真の被写体としても人気]()
市電の路線は2系統「湯の川~谷地頭」と5系統「湯の川~函館どつく」の2路線で、「十字街」の停留場で分岐する。車両基地である「駒場車庫前」を朝6時7分に出発し、23時頃まで運行している。
沿線には、北海道の三大温泉郷に数えられる「湯の川温泉」や特別史跡の「五稜郭」、元町やベイエリアをはじめとする「西部地区」など、主要な観光スポットが。
例えば、湯の川温泉に宿泊した場合、「湯の川温泉」から乗車して「函館駅前」で下車し、徒歩3分ほどの場所にある函館朝市で朝食。市電で西部地区へ向かい、元町の教会群やベイエリアの赤レンガ倉庫群を散策。5系統「函館どつく」前行きでさらに西へ進み、旧ロシア領事館や外国人墓地まで足を伸ばす。帰りに「五稜郭公園前」で降りて五稜郭公園を歩いた後、湯の川温泉へ戻るといったスケジュールも可能。函館山ロープウェイの山麓駅は、「十字街」で下車し徒歩で約10分だ。
運転の必要がないため、日中からお酒が飲めてしまうのも市電でのお出かけの醍醐味。冬は路面状況により多少運行が遅れる場合があるので注意してほしい。
料金は2キロ210円~(小児半額)とリーズナブルだが、何度も乗るのは料金が心配という方もご安心を。1日乗り放題の「1日乗車券(600円)」や「市電・函館バス共通乗車券(1日/1000円、2日/1700円)」が用意されている。いずれも、小児料金は半額となる。
達人が教える、市電で行ける穴場スポット
![国の重要文化財に指定されている遺愛学院本館 国の重要文化財に指定されている遺愛学院本館]()
「杉並町電停の目の前にある遺愛学院は、隠れた観光名所です。」と達人。中学校と高等学校を併設した遺愛学院は、1882年に創立された、関東以北で最も歴史のある女学校。今も多くの学生が通う学校でありながら、広大な敷地にある建物の2つが国の重要文化財に指定されている。
ひとつは、正門から真っすぐ歩いて行くと見える1908年に建てられた「遺愛学院本館」。サーモンピンク色の外観に白で統一された窓枠がかわいらしい。左右対称のアメリカンスタイルで、明治期の洋風建築の中でも優れている。もうひとつは通称「ホワイトハウス」と呼ばれる旧宣教師館。アメリカから来函した宣教師の住居として、こちらも1908年に建てられたアメリカンスタイルの建物。毎年春には前庭にクロッカスが咲き誇る。どちらの建物も、立教大学の初代校長のアメリカ人建築家J・M・ガーディナーが手がけたもの。さまざまな映画やCMのロケ地にもなっている。開門時間内であれば、外観の見学は自由だ。
例年7月末に「ホワイトハウス」の内部を一般公開(2015年は終了)。白を基調としたシックで洗練された空間に当時使われていたアンティーク品が残され、明治期の宣教師の暮らしを垣間みることができる。
湯の川温泉電停のすぐそばにある「足湯」や、ヨットが並ぶ港を挟んでベイエリアを一望できる「緑の島」も達人のおすすめスポットだ。
達人おすすめの、車窓から見える景色
![青柳町電停から谷地頭へ進むと函館山が目の前に迫ってくる 青柳町電停から谷地頭へ進むと函館山が目の前に迫ってくる]()
ゆっくりと流れる、車窓からの景色も魅力。窓からカメラを向けている人も多く、最近ではファンの撮った動画がユーチューブにアップされている(函館市電公式ではない)。達人のおすすめは、青柳町電停からの景色。ここからは、函館山を正面に、右手に函館公園、左手に少し海が見える。春は桜、夏は濃い緑と輝く海、秋は紅葉、冬は雪景色と、季節の移ろいが感じられる風景だ。
「春は柏木町電停と杉並町電停の間にある、桜が丘通りもおすすめです。」と達人。桜が丘通りとは、一般住宅街でありながら市民に人気の高い桜の名所。約800メートルに渡り約100本の桜が植えられ、満開時期には桜のトンネルを作り出す。この時期の桜が丘通りは、その桜をひと目見ようと昼夜を問わず車が渋滞。電車からなら渋滞を気にせず眺められるし、下車して徒歩で桜を楽しむことも。函館の街並みは、どこかノスタルジックでありながら住宅街、繁華街、観光地で雰囲気が変わる。車窓の外に目を向ければ、その景観も楽しめる。
レトロでユニークな車両にも注目を
![4月中旬~10月末まで運行している箱館ハイカラ號 4月中旬~10月末まで運行している箱館ハイカラ號]()
「せっかく電車に乗るのなら、その車両の特徴を知っていると”交通手段”だけではない楽しみ方ができます」と達人。街中では広告ポスターをラッピングした車両が多く見かけられるが、大正~昭和初期の「チンチン電車」を復元した「箱館ハイカラ號」をはじめ、見た目にもおもしろい、さまざまな車両も運行している。
映画などによく登場するのが、最も古い営業車両「530号」。1951年から就役し、現在は繁忙期である夏に姿を見せることが多い。外観もさることながら、車内が木造になっていてレトロな雰囲気を醸し出している。最新の車両は、国産初の2連接型超低床電車の「らっくる号」。乗降口の段差が解消されたため乗車しやく、固定バンドが付いているので車イスでもラクラク。2016年3月まで、北海道新幹線H5系をイメージしたラッピング車両が走っている。
乗車はできないが、期間限定で見ることができる車両のひとつが、電飾に彩られた「花電車」。例年「函館港まつり」に合わせ7月末~8月5日に運行され、「函館港まつり」のパレードにも参加する。雪国ならではなのは、黄色と黒のしま模様が特徴の除雪車両「ササラ電車」。除雪作業は営業車の運行前に行われるため、走行は朝4時~5時頃。見たい場合は早起きが必要だ。
市電で夏の思い出を作りたいという人は、カラオケビール電車を利用するという手も。ビールサーバーも設置された、カラオケが出来る車両を貸切で楽しめると毎年大人気。利用時間は約2時間。料金は1運行につき1万9000円、最小人数制限はなく、最大35名まで。2016年は7月7日(木)~8月31日(水)までの運行。予約状況等は函館市企業局交通部事業課(0138-32-1730)に問い合わせを。