天領日田を観光
現地編集部が徹底ガイド

九州のほぼ真ん中に位置する大分県日田市は、温泉地としても人気も高く、三隈川に沿って旅館やホテルが建ち並び、昔ながらの温泉街の雰囲気を放っています。九州の最高気温を記録するなど、猛暑日に関するニュースの中で頻繁に取り上げられる日田市ですが、その際に石畳に打ち水をかけているのを良く見かけませんか。その場所こそ、かつて天領日田の中心地として栄えた豆田地区です。

重要伝統的建造物保存地区に指定されている豆田町には、古い歴史を活かした個性的な資料館が数多くあり、ミュージアム巡りが楽しめるのも魅力です。江戸時代初期の頃から徳川幕府が直轄する天領として栄え、城下町がつくられました。なかでもJR日田駅からもほど近い豆田町や隈町は、今でも白壁の旧家が並び、レトロな雰囲気を楽しめる人気の観光エリアとなっています。

日田は、徳川幕府の直轄地である天領としても知られていました。天領は、明治以降に使われるようになった言葉で、江戸時代には支配所や御料、御料地などの名で呼ばれていました。まず、江戸時代前期に、現在の豆田町に「永山布政所」とも呼ばれる日田陣屋が築かれました。

もともとは日田代官が置かれていましたが、西国筋郡代にまで昇格しました。代官が5万石ほどの小さな国の領地を管理していたのに対して、郡代が管理しているのは広域の10万石以上もの大きな領地。江戸幕府の60カ所ほどの天領の中でも郡代が置かれていたのが、全国でもわずかに関東、美濃、飛騨、日田の4カ所しかなく、いかに日田が大きな役割を担っていたかがうかがい知れますね。

西国筋郡代が置かれたことによって、日田と中津を結ぶ日田往還や日田と福岡や熊本など九州の主要な地域を繋ぐ日田街道が整備され、以降、幕府の役人や陣屋を訪れる多くの人が行き交う日田は、九州の征治や経済の中心地として、大きく発展を遂げていきます。

古地図と照らし合わせてみても、豆田町や隈町という当時中心部であった町が現在の日田市の中心を担っていたり、日田往還や日田街道が現在の国道に変わっていたりと、江戸時代に現在の基礎が出来上がっていたことが分かります。

天領や九州の小京都として名をはせる豆田町の中に、一際古い木造四層三階建ての「日本丸館」が、城下町の面影を色濃く残す周囲に溶け込むようにして建っています。「日本丸（にほんがん）」とは、1887年に岩尾薬舗が売り出した万能薬のこと。

重厚感のある「岩尾家住宅（旧日本丸製薬所）」は、最上階に展望楼を設けており、その特徴的なたたずまいから、豆田の天守閣と称されることもあるとか。大分県で最古の薬局として、日田市の都市景観建築指定第1号や国の登録有形文化財にも登録されています。

一般公開は、2月15日～5月の春と9月～11月の秋の年2回で、営業時間は10時～16時ですが、閉館中でも団体で予約すると開館してもらえたり、1階の「岩尾薬舗」に声を掛けると内部を見せてもらえたりすることも。定休日などの詳細については公式サイトで確認してください。

豊富な日本丸をはじめとする薬や岩尾家に伝わる生活品などの貴重な資料を見たり、春には日田で有名な雛人形を観賞したり、最上階に設けられた展望楼から日田の町並みを眺めたりと、ここならではの特別な時間を過ごせます。専用の駐車場はありませんので、車で向かう際には、徒歩で約10分の月隈公園の無料駐車場を利用するのが便利です。

花月川のそばにある「薫長（くんちょう）酒造」は、築190年の酒蔵の2階を「酒蔵資料館」として開放。1955年頃まで実際に使われてきた木製の樽など古くから使われてきた酒づくりの道具を展示しています。展示物はもとより、大きな梁など建物にも注目です。

日田の特産品といえば日田杉を使った下駄。「天領日田はきもの資料館」は、自社工場で製造した日田下駄などを直売している店舗の２階にあります。先代がコレクションしてきた下駄の中には、下駄にスケートの刃が付いたものや、二人三脚の競争で使う長い下駄、高い所にあるものを取るための厚底の下駄など、ユニークなものがたくさん。日本人の履物の歴史を知ることができますよ。

人々の暮らしに欠かせないものとしては、薬をテーマにした資料館も。1855年に薬や雑貨を扱う店を開いた「日本丸館」では、国登録有形文化財である建物のほとんどを資料館として開放しています。明治時代に同店で生まれ、爆発的に売れた万能薬「日本丸」にまつわる資料や、大正、昭和に至るまでのさまざまな薬、薬づくりのための道具などを見ることができます。昔の薬袋は意外にもおしゃれなデザインが多いのです。

2016年にオープンしたばかりの「古事記・八百万の神浮世絵ミュージアム」も、新たな観光スポットとして注目を集めています。全国でも珍しい日本の神様をテーマにしたミュージアムでは、古事記の世界を分かりやすく紹介しています。オリジナルの浮世絵で描かれる神様がそれぞれ魅力的で、思わず神話の世界に引き込まれてしまいます。1階では神様が描かれているミュージアムグッズが豊富にあり、開運のお守りとして持ち帰るのもおすすめです。

資料館では、古い時代のものを大切に受け継ぎ、古い時代に再びスポットを当てようとする日田の人々の想いに触れることができます。ゆっくり時間を取って巡ってみて。

三隈川沿いにある1594年に築城された日隈城も城下町としての歴史を今に伝える城跡です。梯郭式平山城で、かつては五重の天守や三重櫓などもあったそう。現在は石垣があるのみですが、周辺は亀山公園として整備され、桜の名所としても有名ですので、川沿いの散策におすすめです。

現在でも、日隈城跡や日田陣屋、豆田町の町家など、かつての歴史を物語る貴重な文化財が残っていますので、昔に思いをはせながら、町歩きを楽しむのも粋な時間です。

また、日田周辺の天ヶ瀬温泉や「裏見の滝」としても親しまれている慈恩の滝なども大分観光には欠かせません。

日田市はSNSが充実しているのが特徴で、日田市観光課がfacebookやtwitterなどでイベント情報やスポット周辺情報なども発信していたり、スポット検索やグルメスポット検索、ホテル予約が簡単にできたり、JRの時刻表を確認できたり、飛行機時刻表に合わせての大分空港でのレンタカー予約が手軽にできたりと、観光客に嬉しいサービスや情報が満載ですので、こちらも要チェックです。

日本丸館
【住所】大分県日田市豆田町4-15
【電話番号】0973-23-6101

日田市は周囲を山に囲まれた盆地で、多くの河川が流れ込む水郷です。なかでも有名なのが三隈川で、夏になると鵜飼が盛んに行われています。細長い船の先端にかがり火を焚き、古式ゆかしい衣裳を身に着けた鵜匠が、6羽から8羽の鵜を操って、鮎などの魚を捕獲。日田の鵜飼は、日本三大鵜飼のひとつにも選ばれていて、400年以上もの歴史を誇ります。

鵜飼が見られるのは5月20日から10月下旬までで、日田温泉の旅館が所有する屋形船に乗って見物可能。夕焼けに染まる三隈川を漕ぎ出し、夜のかがり火の中で昔ながらの漁法を見るのは、日田の夏ならではの楽しみ方です。

鵜飼同様に鮎漁が始まる頃に行われる「日田川開き観光祭」も外せない祭りのひとつ。2日間で約1万発が打ち上げられる花火のほか、舞踊大会や音楽パレードなど、華やかな催しが盛りだくさんです。

7月の夏本番を迎えると、「日田祇園祭」も始まります。300年もの伝統を持つこの祭りは、ユネスコ無形文化遺産にも登録。期間中には多くの観光客が訪れます。

夏場の疫病や風水害を祓う厄除けの祭りとして始まり、高さが約10メートルもある豪華絢爛な山鉾が、豆田町や隈町などの地域を練り歩きます。集団顔見世の時は9基の山鉾全てが一斉に勢ぞろいする貴重なタイミング。迫力満点の光景は見逃せません。

秋が深まる11月には、マダケの生産量が日本一を誇る大分県を象徴するような「千年あかり」のイベントが開催されます。開催日は、11月の第2土・日曜日で、豆田町の人たちを中心につくられた3万本の竹灯籠が、花月川の河川敷や豆田町の町並みを照らすイベントで、幻想的な景色に思わず心が奪われます。

竹灯籠の他にも各所に光のオブジェが展示されるなど、ロマンティックな雰囲気が魅力です。同日の昼には、江戸時代の衣装に身を包んだ人々が町を練り歩く「日田天領まつり」もあるので、こちらもチェックしてみましょう。臼杵地区の「竹宵」、竹田地区の「竹楽」とともに、『大分三大竹祭り』のひとつに数えられています。

春の訪れを告げる「天領日田おひなまつり」は1度ならず2度3度と通いたくなるイベントです。毎年2月になると、豆田町や隈町など白壁の町では、いたるところにお雛様が飾られ、一気に春めいた気分になれます。

江戸時代には九州随一の栄華を誇った日田の町では、莫大な財をなした豪商も多く、都から取り寄せた豪華絢爛なお雛様など貴重なものが見られるのも魅力です。四季を通じて自然と歴史を堪能できる日田のイベントは、毎回新たな発見が待っています。

観光で日田を訪れたなら絶対に押さえておきたいのが、ご当地グルメ。なかでも有名なのが「日田やきそば」です。日田やきそばの特徴は、焦げるのではないかというくらい鉄板の上で麺を焼き、麺の一部がパリパリの食感になること。基本的にはもやしやねぎ、豚肉を具材にしていて、店それぞれのソースで味付けをしています。

豆田町で地元っ子にも人気なのが「宝華ラーメン」。ラーメン店ながら、メニューの一部として提供される日田焼きそが名物です。こだわりの和風ソースを使っているので、しっかりうまみがありながら後を引かないあっさりとした味わいが魅力。食材の味もしっかりと堪能できるのがポイントです。宝華ラーメンの他にも、日田市内の多くの飲食店で日田やきそばが食べられるので、味比べをするのもおすすめです。

日田やきそばの味をお土産に持ち帰りたいという人には、地元の特産品がズラリと並ぶ「元氣の駅」へ。家庭でも日田やきそばの味が再現できる特製ソースが入ったお土産用のセットがあります。また、日田やきそば味のスナック菓子もユニークで喜ばれそうです。

B級グルメつながりでいくと、豆田町にある創業70年にもなる鶏肉専門店「鳥市」も外せません。精肉や唐揚げなどの惣菜を販売している店ですが、看板メニューは鶏の足を醤油などで煮付けた「もみじ」。その名の通り、もみじの葉のような形の鶏の足は今にも動き出しそうで、インパクトの大きな見た目ながら、地元の人たちに大人気です。食べてみると豚足に似た味わいが魅力。コラーゲン効果で肌がプルプルになりますよ。

豆田町の老舗の酒蔵や醤油蔵では、自社製造の食材を使ったスイーツも販売されています。酒蔵資料館を併設する「薫長酒造」は、大吟醸の酒粕と生酒を使った吟醸アイスが並び、アルコールが苦手な人でも香り豊かな風味を楽しめるのがポイントです。地元ならではの個店の味をめぐるのも楽しみのひとつです。

かつての町屋を生かした造りの「麦屋カフェ」は、豆田での町歩きで立ち寄りたいおしゃれなカフェ。日田名物をふんだんに盛り込んだ日田っ子ライスや人気のキーマカレーパンなどをランチでいただくも良し、柚子胡椒が隠し味のコロネソフトや梨ソフトを休憩で味わうも良し、ほっこりとした癒やしの時間を過ごせるご当地グルメスポットです。