筑前の小京都 秋月
ツウな散策を現地編集部が徹底ガイド

歴史的建造物が立ち並ぶ秋月は、静かでどこか懐かしさえ感じられる町。その趣ある街並みから「筑前の小京都」ともいわれ、1998年4月には国の重要伝統的建造物群保存地区にも選定されています。

江戸時代に建てられた武家屋敷や土塀、石垣が今も残り、それらは秋月が長い年月に渡って積み重ねてきた歴史や文化を今に伝えています。近くにある古処山は谷川や杉木立にも恵まれ、夏はキャンプ地として利用されることもあります。

秋月は元々「商都」として栄えた町。その理由は江戸時代、徳川家康が納める江戸幕府の直轄地で、同じく商都だった現在の大分の日田と福岡の博多を結ぶ筑紫路に位置していたから。鎌倉時代から江戸時代にかけて、約800年に渡ってさまざまな歴史を積み重ねてきたこの土地は、江戸時代に武家の16代秋月種実（あきづきたねざね）が豊臣秀吉に命じられ、領地を日向国（現在の宮崎県）に移されるまで領有していました。

博物館や美術館を始め、歴史ある神社や寺院、地元に根付いて古くから続く食事処などの観光施設もあり、現在も魅力にあふれる秋月の城下町。秋月城は明治期に廃城され今はありませんが、当時と変わらぬ場所に今も残る名所もあります。杉の馬場の桜や秋の紅葉など、四季折々の美しい風景が今も訪れる人々を魅了しています。

秋月へのアクセスは車でも公共交通機関でもOK。車の場合は公営・私営の有料駐車場が各地に点在しています。各名所や飲食店には駐車場が用意されている場合もあるので、事前に調べておくといいでしょう。公共交通機関を利用の場合は甘木鉄道甘木駅で下車し、甘木観光バスで各観光地近くのバス停まで。バスは頻繁には来ないので、事前に時間をチェックしておくとスムーズです。

初めて秋月を訪れる人には、古処山を正面に城下町を時計回りに観光するコースがおすすめ。まずは、春は桜並木が美しい「桜の馬場」通りから。秋月城下町のメイン通りである杉の馬場の通り沿いには観光地や歴史ある名所が多く集まっています。

最初に訪れたいのが、秋月の約800年にもわたる郷土の歴史を知ることができる朝倉市秋月博物館も朝倉観光でおすすめ観光スポット。大きな冠木門の入り口に迎えられ中に入ると、秋月稽古館跡に建てられたという博物館の建物が見えてきます。以前は「秋月郷土館」として秋月の歴史を現代に伝えていましたが、近年、新たに「秋月博物館」として生まれ変わり、郷土館が所蔵する貴重な資料の全てを受け継ぎながら、新しい視点に基づいた展示を行っています。2階には、美術館もあり、かの有名な横山大観や岸田劉生、ルノワールらの絵画をはじめ、彫刻、工芸などさまざまな作品を鑑賞することができます。

季節によって展示替えも行われ、萩谷巌ら郷土の作家の作品が展示されることも。豊かな自然に囲まれた歴史と情緒を感じる街で、芸術や文化にも触れてみてください。いつもとはまた違う感性で芸術作品を楽しむことができるかも。

博物館を出たら、古処山を左手にそのまま杉の馬場の通りをまっすぐ。すぐに見えてくるのは、秋月城へ続く坂として利用されていた「瓦坂」。その上に立っていた城は明治時代に入って廃城され、壊された秋月城の跡地には現在、木造の中学校が建っています。瓦坂の隣にはかつて秋月城の裏門として利用されていた「長屋門」が。この長屋門は、建設された当時と同じ場所に建つ唯一の史跡で、かつては側室や家族が暮らしていた屋敷（奥御殿）の通用門でもありました。さらに奥にある石段を上がると大手門として利用されていたものを移築した「黒門」、その上に1600年代に秋月の初代藩主として活躍した黒田長興が祭られる「垂裕神社（すいようじんじゃ）」があります。垂裕神社にもかつて秋月城の黒門が移築されていました。紅葉スポットとしても知られる黒門周辺は、小京都観光に欠かせない人気観光スポットです。

数あるスポットの中でもぜひ訪れて欲しいのは秋月の武家屋敷「久野邸」。垂裕神社祀られる黒田長興に仕えた上級武士の屋敷です。江戸時代初期に建てられ老朽化が進んでいたので、1994年に修理・保存され、現在は建物も含め邸宅に残されていた品々を展示・公開しています。

観覧料は大人300円（未就学児は無料）。敷地面積は622坪。当時の杉の馬場付近の武家屋敷に広さの平均400坪を超えるその広さは久野家の格式の高さを象徴しています。北側には回遊式庭園があり、周囲の山々が望めます。屋敷から見ることのできる美しい山々を背景にした庭園は絶景。敷地の南側、東側にも庭園があり、こちらも散策が可能。彩り豊かな草花や紅葉、しんしんと降り積もる雪など四季を通してその眺めを楽しむことができます。

江戸時代の歴史ある町並みが今も残る秋月には、他にも見ておきたい観光名所がたくさん。1810年に完成し、県指定有形文化財にもなっている目鏡橋（花崗岩で作られたアーチ城の両側が階段式になった全国唯一の石橋）を始め、腹切岩や鳴渡観音、秋月氏の拠点であり、かつては黒田氏が麓に秋月陣屋を築いていた古処山城など。また、古心寺は、黒田長政の次男であり、秋月藩の初代藩主でもある黒田長興が、父である長政の菩提を弔うために作った寺院。秋月黒田家の菩提寺であり、秋月藩主の墓が建っています。この地一帯にゆかりのある黒田家や秋月家にまつわるスポットがたくさん。ぜひ、見て、触れて秋月の静かな趣ある情景を味わって見てください。

名所を見て回ったら、秋月の文化を「体験」できる場所へ。1876年創業の「筑前秋月和紙処」では、江戸時代から秋月で伝えられてきた手漉き和紙の体験ができます。秋月和紙は江戸時代の中頃に盛んとなり、秋月では有名な「葛きり」や「川茸」と並ぶ名産品だったそう。江戸時代に髪を結う元結呼ばれる紐にも使われるほど引きが強く、しなやかな秋月和紙。墨の乗りも良く、遠方から書道用を求めて来るとか。

販売スペースでは、さまざまなデザインのぽち袋、ハガキやレターセットなどを購入できるので、お土産にぜひ。工房では1人1200円（送料込み）で手漉き和紙体験も受けることも可能。団体での申し込みのほか、保育園児や小学生向けの体験教室なども実施されているので、子ども連れの人にもおすすめ。体験を希望する際は、事前予約も忘れずに。

秋月には他にも伝統的な「モノ」の魅力を伝える店がいくつかあります。その中のひとつ、味のある民芸品を扱う「工藝店 秋月」。こちらでは朝倉の小石原焼、大分県日田の小鹿田焼など九州の焼物を中心に、全国から集められた美しい手仕事の品々が展示・販売されています。場所は秋月博物館づぐ近く。古処山の麓まで続く「野鳥川」沿いにあり、その清流を臨むこともできます。美しいこだわりの焼き物は秋月のお土産にもぴったり。大切な人への贈り物にも、自分用にも。秋月の思い出としてぜひ持ち帰ってみてください。職人さんが手作業で作り上げた一品で日常に彩りを。

自然スポットや緑豊かな公園なども多い朝倉・秋月地区では1年を通して季節のイベントや見どころも満載。春は杉の馬場や秋月城跡、甘木公園で桜が見頃を向かえ、梅園公園では春祭りが行われます。初夏には花火大会や鵜飼、ホタル祭り、10月から11月にかけての秋の季節はコスモスや秋月城跡の紅葉が見頃を向かえ、趣ある城下町の景色はさらに魅力的に彩られます。また、秋月が位置する朝倉市は、フルーツの産地として有名。柿、梨、ぶどう、いちじくなどが綺麗な水と空気に恵まれた環境の中で生産されています。季節によって旬のものは変わりますが、フルーツ狩りは1年中楽しめます。体験したい場合は事前に予約を。

お腹が空いたら観光地周辺の飲食店へ。目鏡橋の近くには魅力的な店が集まっています。「囲ろり 山のくら」では、古処山の麓で開発された鶏肉「古処鶏」やシカやイノシシの肉などの「ジビエ料理」を趣ある店内で味わうことができます。「鶏肉が嫌いな人ほど、違いがわかる」という古処鶏と低カロリーの上に鉄分やたんぱく質を多く含むジビエ。昼時にはランチメニューもあるので、訪れた際はぜひ一度味わってみてください。

秋月で有名な葛料理はぜひ「廣久葛本舗」で。店内では、100％天然国産の本葛（本くず粉）を、使用して作られた葛きり（813円）、葛もち（648円）、葛湯（545円）、葛そうめん（915円、夏季限定）など昔ながらの葛料理を味わうことができます。古処山から湧き出た清らかな水を使って作られた本葛は絶品。

また、前述のメニューは持ち帰り用の材料が販売されているので、自宅でもおいしい本葛を味わうことができます。店で食べて気に入ったら、ぜひお土産にどうぞ。築260年という歴史ある日本の伝統家屋で、時間を忘れてゆっくりと味わう本葛。秋月の美しい水を使った、ここでしか味わうことのできない貴重な葛料理を堪能してみてください。

おいしいものも食べたいけど、食事を早く済ませて観光地をたくさん回りたい、という人におすすめしたいのはパン屋「月の峠」。穀類を原料に「天然酵母」を使って作られたパンが食べられます。人気ナンバー1はカレーパン（220円）。地元産の「古処鶏」のミンチとガラスープを使って作られるというオリジナルカレーは外生地のサクサク感とよく合って絶品。2番手はぶどうパン。他にも種類豊富に揃っているので時間があればぜひ一度立ち寄ってもらいたい店です。

秋月博物館近くにはハンバーガーが食べられる店舗も。ログハウスの一軒家で営む「カフェ&レストラン　びっきい」では、のどかな秋月の田園風景を前に人気のハンバーグセットや看板メニューのハンバーガーが味わえます。古処鶏を使ったてりやきチキンバーガーや自家製のベーコン、お店の畑で採れた新鮮な野菜にも注目。テラス席はペットと一緒に利用することも可能です。

びっきいから歩いて徒歩約3分ほど、杉の馬場近くにあるのは秋月の景色に溶け込む、町屋風の「黒門茶屋」。お品書きには、葛もちやお抹茶に加えて、うどんやそば、定食などの食事メニューも。秋月名物のひとつ、朝倉の黄金川で採れた淡水のり「川茸」の定食もこちらで頂けるのでぜひ。

少し足を伸ばせるなら、名所が集まるエリアから少し離れた、「野鳥」エリアへ。山間にひっそりと佇むお店は「御蕎麦 ちきた」。古民家で営まれているこのお店では、定番のそばだけでなく、甘味、お酒も味わえます。こちらも歴史ある古い建物ならではの落ち着いた空間でゆっくりと食事ができます。

歩いて行ける距離には川床で食事ができると人気の「だんごあん」も。こちらもヤマメの定食から甘味まで味わうことができ、夏でも涼しく食事ができると評判です。

春の桜や秋の紅葉が見頃の季節こそ賑わうものの、夏や冬になると静かでゆっくりとした時間が流れる秋月の町。豊かな自然に囲まれた歴史と情緒あふれる町をぜひ一度訪れてみてください。

大牟田や久留米などの筑後地方にも近い秋月周辺には、日帰り利用が可能な秋月温泉の「清流庵」や、耳納連山や筑後平野を一望できる日帰り温泉施設「美奈宜の杜温泉」、星の文化館近くに建つ日帰りの「温泉館きらら」、筑後川温泉、玉川温泉など、帰り掛けに立ち寄りたい温泉地も満載です。

秋月から車で30分ほどの距離に、美肌の湯で有名な原鶴温泉があります。ジャングル風呂で知られている「原鶴温泉　泰泉閣」や絶品イタリアンのもてなし料理が自慢の「原鶴温泉　花水木」など、くつろぎのひとときが過ごせる旅館ばかり。夜には伝統的な鵜飼も楽しめますよ。

福岡市から1時間ほどで行くことのできる秋月。博多や福岡には、連泊プランを用意したホテルもあるなど、旅行者に嬉しいお得情報も。九州自動車道を経由することで、佐賀県の川上峡温泉や唐津市の鳴神温泉、古湯温泉、大分県の湯布院温泉などに気軽に行くことができます。