「知床の観光船」で世界遺産を水上から堪能
平成27年(2015)に世界遺産登録10周年を迎えた知床。ダイナミックな断崖絶壁の風景やヒグマウォッチングを楽しめる小型の知床観光船の楽しみ方をご紹介。
![急峻でダイナミックな知床岬をクルーズ 知床岬クルーズ]()
2015年 7月に、知床地方は世界自然遺産登録10周年を迎えた。そのダイナミックな自然は、知床有数の観光スポット「知床五湖」などの陸上からだけでなく、ぜひ海上からも体感してほしいもの。そこでオススメしたいのが、ウトロ港や羅臼港から運航の大小さまざまな船を利用する“観光船クルージング”だ。今回は、海鳥などの野生生物や切り立った断崖風景を間近で観察できる知床「小型観光船」の楽しみ方を紹介する。
取材・文/知床のミニコミ誌「シリエトクノート」編集部 投稿/2015年 10月
知床観光船はそれぞれに特徴がある
![野生動物の観察を多く楽しめるのが小型観光船の特徴 カムイワッカ号]()
知床の観光船は大小さまざまで、大きく分けて斜里町側のウトロ港発着の船と、羅臼町側羅臼港発着の船がある。ウトロ側で一番大きな知床観光船は定員400名の「知床観光船おーろら」。揺れが少なく安定感があるので、船酔いの心配がある人はこちらが安心だ。小型船については、今回紹介するゴジラ岩観光のほか数社が運航しており、ヒグマなど野生動物の観察に力を入れているのが特徴。詳しくは知床斜里町観光協会ホームページをご覧いただきたい。
一方、羅臼側では、クジラやシャチ、イルカなどを観察できる定員10~70名程度の観光船が数社運航しており、こちらも人気を集めている。こちらも詳しくは羅臼の観光協会ホームページを参考にしてほしい。
運航期間はウトロ側がおおむね4月下旬~11月上旬まで。一方、流氷の影響が少ない羅臼側はほぼ1年中運航している。ちなみに「知床観光船おーろら」は、冬は約40キロ離れた網走港に移動し、「流氷砕氷観光船おーろら」として運航している。夏とは違った環境で、多くの観光客を楽しませている。
いろいろなコースがある中の知床岬コース
![小型観光船から硫黄山とカムイワッカの滝を望む 硫黄山とカムイワッカの滝]()
ウトロ側の知床観光船コースには大きく分けて3つのコースがある。事業者によって名前は違うが、カムイワッカの滝コース(往復約1時間)、ヒグマウォッチングコース(往復約2時間)、知床岬コース(往復約3時間)が一般的だ。中でもすべての見どころを網羅するのが一番長い知床岬コース。知床がアイヌ語でシリエトク(=陸地の突端)、転じて「地の果て」と呼ばれるのは、細長く突き出たこの岬の地形が由来となっている。
「天気が良ければ、岬の奥にうっすらと北方四島の国後島も見えますよ。あと個人的に思う醍醐味は、何と言っても奇岩が並ぶ断崖。これは自然の彫刻ですよね。例えば岬コースでしか見られない「観音岩」という岩があるのだけれど、本当に仏教美術のような観音様に見えるもの。表面に模様もある。こういう奇岩を見られるだけでも岬コースに乗る価値があると思いますよ」
達人・山谷さんはコースの魅力をこう語る。また知床岬には道路がないため、通常、一般の観光客は陸上から岬に行くことができない。海岸トレッキングは可能だが、登山や沢登りの技術が必要となるからだ。そのため、気軽に知床岬の景色を眺められるのは、唯一、観光船の知床岬コースと言えるだろう。
「小回りがきく」 これが小型船ならではのメリット
![知床岬コースでは「カシュニの滝」も見ることができる カシュニの滝]()
ゴジラ岩観光の小型船クルーズは、知床の海の魅力を知る船長のガイド(おしゃべり?)も楽しい。「先ほど通り過ぎた滝はフレペの滝。別名『乙女の涙』と言われています。今、断崖にちょろちょろ流れている滝が見えますか?この滝は陸上からは一切見えない滝なのです。こちらは通称『男の涙』と言われています。男は影でひっそり泣くということですねえ」。
また小回りがきく小型船の最大の魅力は、迫力ある断崖のすぐ近くまで寄ってその岩肌を眺めたり、希少な海鳥を観察したりするのに適しているところ。「希少な海鳥のケイマフリはこの断崖で子育てします。知床は海も含めての自然遺産なのですよ。野生動物たちは守っていかなければなりません」
もちろん小型の観光船は天候や波の状況によっては揺れやすく、また海上は夏でも肌寒いことが多い。酔いやすい人は大型船の方が安心なので、体調や好みに合わせて選択すると良いだろう。
知床観光船から見るヒグマの楽園「ルシャ」
![人里では恐れられるヒグマも「ルシャ」では自由だ ヒグマ]()
「皆さん、あの川の河口に2頭のヒグマがいるのが見えますか? マスを獲りにきたのですね。小さく見えますが、あれでも200キロくらいはあるはずですよ。あら、魚をあきらめて山菜を食べに行きましたね」。ルシャのヒグマウォッチングポイントに到達すると、達人の解説にも熱がこもる。「うわあ、いた、いた!」と知床観光船の船客も興奮気味だ。
ルシャは昔から漁師とヒグマが自然に共生している世界的にもとても珍しい場所。ここを漁業拠点としている漁師たちはヒグマが近くにいても気にせず作業し、ヒグマの方も人間を気にしない。世界自然遺産になるずっと前から、絶妙な距離を保ちながら、お互いの生活を営んできた。
「ここはいわばヒグマの楽園ですね。人間に邪魔されることはありません。もし街にでてきてしまったら、人間が襲われる事故があるかもしれませんので、駆除されることもあります。陸上で出会うととても怖いですが、ここから見るのは安心ですよ」
知床観光船の特徴・ポイントを押さえて楽しむ
![小型船は風・波に左右され、船酔いしやすい点に注意 注意点]()
知床の観光船を楽しむのに気をつけたいのが、やはり天気と船酔いだ。天気が悪い日はそもそも船が出航できないので、事前予約していても当日出航できるかどうかは各事業者に問い合わせてみてほしい。陸上の天気が良くても、風が強い日や波が高い日などは同じく出航できない点にも留意。また陸上では暖かくても、海上は風が強く寒いことが多い。春先や秋はなおさらだ。景色を眺めるにはデッキの外が見やすいので、乗船前になるべく厚着をしておこう。
そして、乗り物酔いしやすい人は船酔いに注意が必要。波が穏やかであれば揺れは少ないが、心配な人は酔い止め薬を服用するなど対策をしておこう。それでも心配な人は大型船を選択するのが賢明かもしれない。注意点をよく確認しながら、雄大な景色や野生動物の営み、海上からでしか味わえない知床の自然の醍醐味を、小型観光船クルーズでめいっぱい感じてほしい。
奇岩や、乗船後に味わいたいグルメ・お土産もチェック!
知床観光船から見えるオススメ奇岩
知床の奇岩はナチュラルアート。知床観光船で眺めてほしい3つの名所をご紹介。
- おすすめポイント
- 断崖続きの知床半島には、変わった形の奇岩がずらりと並ぶ。白い岩肌が美しい観音岩や、見た目から納得の名前が付いているタコ岩や象岩が有名だ。海側からしか眺められない造形美を、観光船から楽しんでほしい。
乗船後に味わいたい知床・ウトログルメ
新鮮な魚介類など、地場産食材を提供する知床・ウトログルメのお店をご紹介。
- おすすめポイント
- 知床・ウトロのグルメは何と言っても新鮮な魚介類が自慢。「ウトロ漁協婦人部食堂」では旬の魚を使った定食や海鮮丼が人気で、港のすぐそばにある店の雰囲気も知床らしい。地元住民も通う「波飛沫」や「ボンズホーム」もおすすめだ。
乗船後に買いたい知床・ウトロのお土産
知床旅の思い出に、ぜひお土産にしてほしい知られざる逸品はこちら!
- おすすめポイント
- 地元の専門家らがお墨付きを与える「知床しゃりブランド」。その認証品である「いくら醤油漬け」や「スモークサーモン・スライス」の品質は高く、秋サケが特産の知床土産にぴったりだろう。地元作家が展開するヒグマイラストの雑貨も、女性を中心に人気を集めている。