熊本県の文化と名産品

熊本県は長崎県に近く、江戸時代初期には特に天草で、キリスト教が広く浸透した。聖職者の育成を目的とする学問所「コレジオ」が建てられ、ラテン語や天文学などのキリシタン文化が栄えた。明治維新まで、肥後54万石を治めた細川氏は、茶道の肥後古流、能の喜多流と金春流、肥後象嵌(ぞうがん)などの文化育成に力を注ぎ、芸能や工芸の発展に寄与した。また熊本県の食文化としては、古くから馬肉を生で食べる習慣があり、屠畜(とちく)後の馬肉生産は全国の40%を占める日本一。加藤清正の時代から続く「からしれんこん」は、今も郷土料理として受け継がれている。熊本県は全国有数の農業県で、畳表の材料となるイグサ(藺草)は県南西部・八代地方の特産。イグサをはじめ、トマトとスイカの生産量も全国1位を誇る。有明海や天草沿岸ではクルマエビやノリ、真珠などの養殖が行われている。

たびらいセレクション

伝統・風習・行事

はだか祭り
無病息災を祈願する伝統行事「はだか祭り」

天草下島の苓北町(れいほくまち)に古くから受け継がれている伝統行事、「はだか祭り」。神事後、裸の男性たちがみこしを担いで海に入り、ほら貝の音が響く中、「チョーサンヤ、ヨイヤ、ヨイヤ」と掛け声を上げながら、約500メートルを泳ぎ渡る。この祭りは無病息災を祈願するもので、約400年前に同地域で疫病が流行した際、それを治めようと山伏が大寒の海でみそぎを行ったことが起源とされる。現在も大寒の1月20日に行われる。

藤崎八旛宮例大祭
 
藤崎八旛宮例大祭・飾馬

「藤崎八幡宮例大祭」は1000年以上の歴史を持ち、昔から肥後国第一の大祭といわれる。“放生会(ほうじょうえ)”や“随兵(ずいびょう)”などの呼び名でも親しまれ、現在でも熊本県内最大の祭りである。見どころは最終日に行われる「神幸行列」で、約2万の人と馬70頭余りの行列が市街を練り歩く。4基のみこしを中心に、100騎の随兵と長柄の武者、その後に伝統の舞いを披露する獅子舞が続き、飾り馬がしんがりを務める。開催は9月の第3月曜を最終日とする5日間。

山鹿灯籠まつり
夏の風物詩「山鹿灯籠まつり」

その昔、深い霧に進路を阻まれた景行天皇(けいこうてんのう)の巡行を山鹿の人たちがたいまつで迎えて以来、天皇を祭って毎年たいまつを献上したのが起源とされる。室町時代からは、和紙で作られた灯籠を奉納するように。奉納灯籠や花火大会、松明行列などが行われるが、圧巻はよへほ節に合わせて頭上に灯籠を載せた女性たちが舞い踊る「千人灯籠踊り」。幾重もの灯りの輪が幻想的に広がる山鹿の夏の風物詩となっている。開催は8月15日~8月16日。

芸能・工芸・美術・建物

木葉猿
素焼きのサルの玩具「木葉猿」

熊本市の北西に位置する玉東町(ぎょくとうまち)木葉に古くから伝わる素焼きのサルの玩具、「木葉猿(このはざる)」。昔、京都から4人の落人が木葉に移り住んで祭器を作ったが、余った土を捨てたところ、サルの形となってどこかへ飛び去った。その後、4人はサルも作り、悪病や災難から逃れ、やがて子孫繁栄の守り神として広く愛玩されるようになったという伝説が残る。木葉で有名なのは、“見ザル、言わザル、聞かザル”の三ザルだが、ほかにも子孫繁栄を願った“原始ザル”や、一生食べ物に困らないよう願いを込めた“飲食ザル”など、10種類以上が手びねりで製造されている。

山鹿灯籠
伝統工芸品「山鹿灯籠・金灯籠」

室町時代から受け継がれる山鹿市の伝統工芸品、「山鹿灯籠(やまがとうろう)」。木や金具は一切使わない、和紙と少量ののりを用いる、紙を何枚も貼り合わせて厚みを持たせるのではなく中が空洞になるように作る、などの特徴を持つ(そのため“骨なし灯籠”とも呼ばれる)。山鹿灯籠には、「宮造り」や「座敷造り」、「人形」、「古式台燈」、「矢つぼ」、「鳥籠」、「古式金」などの多くの種類があり、宮造りや座敷造りは縮小ミニチュアではなく、独自の縮尺スケールで制作される。そのため灯籠を見たときに、実物のような存在感が伝わるようになっている。

肥後象嵌
国指定伝統工芸品「肥後象嵌」

「肥後象嵌(ひごぞうがん)」は江戸時代から伝承される国指定伝統工芸品。細川氏に仕えていた鉄砲鍛冶職人・林又八が、鉄砲の銃身に模様を施したのが起源とされる。生地となる金属に下絵を描き、鏨(たがね)で微細な切れ目を布目状に施し、金や銀を打ち込んで仕上げる(布目象嵌)。重厚感があり、塗料などを一切使用しないさび色だけで仕上げるので、素材の美しさが保たれる。ペンダントやブローチ、ループタイ、手鏡など、記念品や祝いの品としても好まれる。

熊本県の名産品

農産物

トマト
トマトの生産量は全国1位

暖かい気候と温室を利用して、熊本県ではトマト栽培が盛んに行われている。主な栽培地域は、6月中旬から11月上旬が阿蘇地方、11月から7月は玉名や八代。年間の生産量は約12万トンと全国1位で、そのうちの約70%を冬から初夏に出荷されるトマトが占める。また、海沿いに位置する玉名や八代のトマト畑には塩分が混じっており、根が水分を制限することから甘味が凝縮されて、糖度が高いのが特徴だ。

スイカ
熊本のスイカは4月~5月に出荷される

一般的なスイカの旬は夏だが、熊本県のスイカが出荷されるのは4月~5月と早め。この時期は昼と夜の温度差が大きいため、糖度が上がり、食感もしゃきっとしている。県北西部を中心に栽培されており、特に植木町(現在は熊本市北区)は日本一のスイカ産地として知られ、スイカ栽培を目指す人たちが全国から視察に訪れるほどの地。年間収穫量は5万5000トン余りで、全国1位。これは国内総収穫量の約18%を占める。

イグサ(藺草)
熊本県での藺草の生産量は全国の生産量の90%以上

和室に欠かせない畳。その畳表の材料がイグサ(藺草)だ。イグサの栽培は永正年間(1504~1521)に現在は八代市にある上土城(うえつちじょう)の城代だった岩崎主馬守忠久(いわさきしゅめのかみただひさ)が、村人の生活を豊かにするために栽培を教えたことに始まる。八代市千丁町は、イグサ発祥の地といわれ、毎年10月には「いぐさの里まつり」が開催される。岩崎主馬守忠久は地元で“藺草の神様”と呼ばれ、岩崎神社に祭られている。熊本県でのイグサ生産は、ほかにも八代をはじめ球磨(くま)や宇城(うき)で行われており、全国の生産量の90%以上を占めている。

晩白柚(ばんぺいゆ)
世界で最も重いザボン類として、ギネス世界記録に認定されている晩白柚

「晩白柚(ばんぺいゆ)」とは、八代特産のザボンの一種。直径は20~25センチ、重さは1.4~1.8キロで、大きさはサッカーボールほど。八代に導入されたのは昭和26年(1951)で、その後はザボンと交配させる品種改良が行われ、昭和40年(1965)以降は急速に栽培か普及。歯応えは“さくさく”、“ぷりぷり”としており、グレープフルーツ同様の甘味がある。また、世界で最も重いザボン類として、ギネス世界記録に認定されている。晩白柚の名は熟期が遅い「晩生」と、台湾の在来種「白柚」に由来する。

海産物

クルマエビ
クルマエビは有明海などの特産品

体を丸めると車輪のように見えることから“クルマエビ”と呼ばれ、九州では有明海などの特産品として知られる。明治38年(1905)に天草上島の北に浮かぶ維和島(いわじま)で、海水池を利用したクルマエビの養殖が開始されて以来、天草地方はクルマエビの名産地として全国的に知られるようになった。人工的なものではなく天然もののエサを与え、自然に近い環境で育てられるため、ぷりぷりとした食感と甘みを持ち、頭部には濃厚なみそが詰まっている。養殖は年間約131トンで、全国でも有数の水揚げ量。

 
真ダコ
甘みがありやわらかい天草の干しタコ(真ダコ)

真ダコは天草全域で水揚げされ、特に八代海沖で漁獲されたものは、短足胴長で格好は良くないが、甘みがありやわらかい。天草市では、この真ダコを「ひっぱりダコ」と名付けてブランド化している。獲れたてのひっぱりダコは、冷凍することで美しさが保たれるとともに、さらにやわらかく、おいしくなる。天草市の民宿では、タコステーキやタコ飯、タコの天ぷら、タコのだし巻きなど、タコづくしの「天草有明タコ八料理」が提供されている。

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