天草イルカウォッチングで野生の群れに遭遇
天草観光で見どころなのがイルカウォッチング。ここでは、かなりの遭遇率で野生のイルカを見ることができる。あちこちでイルカが自由自在に泳ぎ、愛らしい姿が見られる興奮を、ぜひ体験してほしい。
![船と並走するように泳ぐ、人なつっこいイルカたち 船と並走するように泳ぐ、人なつっこいイルカたち]()
天草諸島・下島(しもしま)の北端にある通詞島(つうじしま)は、天草空港から車で約15分。通詞大橋を通って、本島からは約5分で到着する。餌が豊富なことから沖合には約200頭もの野生のミナミハンドウイルカが生息し、“イルカに会える島”として知られている。
通詞島沖合のイルカウォッチングでは、漁船やクルーザーなど小型の船を利用するので、船上からイルカに手が届きそうなほどの至近距離。多くの観光客を魅了するイルカウォッチングの魅力を、ベテラン船頭に聞いた。
取材/熊本の編集プロダクション「ポルト」、2016年 3月
海底の魚を目当てに、約200頭の野生イルカが生息
![港を出てから10分程度でイルカに出会える 港を出てから10分程度でイルカに出会える]()
熊本県の南西部に位置し、大小の島々からなる天草諸島。その最大の島である下島の北端に、周囲約4キロ、人口約600人の通詞島がある。以前は手漕ぎの渡し舟で往来していたが、1975年に全長約180メートルの通詞大橋が開通以来、本島との行き来が便利になった。この通詞島の沖合にあるのが、潮の流れが速いことで知られる早崎瀬戸。
早崎瀬戸は、起伏に富んだ海底と潮流によってボラやイカ、アジ、トビウオ、カワハギ、アナゴなどの魚が多く集まる好漁場だ。この豊富な小魚を目当てに、周辺には約200頭の野生のミナミハンドウイルカが生息している。陸から近いところに数多く生息しているので、港を出てからわずか10分程度でイルカに出会える。この気軽さが、天草市沖合でのイルカウォッチングの魅力だ。
野生のイルカとの遭遇率は95%以上
![クルーザーに乗り込んで、イルカウォッチングに出発! クルーザーに乗り込んで、イルカウォッチングに出発!]()
「イルカに出会える確率は1年を通じて95%以上。時化(しけ)や群れが別の場所に回遊する時期を除くと、ほぼ年中見ることができます。こんな場所は全国でも珍しいと思いますよ」と達人・木口さんは説明する。通詞島では、地元の民宿や飲食店など約20の団体がツアーを実施しており、大手の業者と比べると割安で体験できるのも魅力的だ。
乗船時にライフジャケットを着用してクルーザーに乗り込んだら、いざイルカウォッチングへ出発。わずか5~10分ほどでイルカの群れに遭遇できる。一つの船が見つけるとすぐに他の船も、一斉にイルカがいる方向へと集まっていく。「追い詰められたらイルカが驚くのでは?」と思うかもしれないが、船のエンジン音に反応して、イルカの方からも船に近寄って来るという。前後や左右で自在に泳ぎ回るイルカに合わせて、船もゆっくり動いたり方向を変えて進んだりするので、船のどこに立っていてもイルカの姿を見ることができる。
「イルカは特に、子どもや女性に寄って来ますね。耳がいいので、声質で判断しているのかもしれません」(木口さん)
晴れた日は海が青く透き通っているので、漁船の周囲に潜っている姿も確認できる。ジャンプしたり、勢いよく泳いだりするイルカたちの姿を目で追い、写真に撮っているうちに、まるで一緒に泳いでいるような感覚を体感してほしい。
迫力ある大ジャンプ、イルカが見せるさまざまな顔
![イルカのサービスで、大ジャンプが見られるかも! イルカのサービスで、大ジャンプが見られるかも!]()
運が良いとイルカの方がサービスしてくれることもあり、時には大ジャンプを見せることもある。春~夏はイルカの出産シーズンで、イルカの子どもは生まれてすぐに泳ぎ始める。親子並んで泳ぐ姿は微笑ましい。
哺乳類のイルカは、賢い動物としても知られている。
「好物のボラの群れを発見したら、数頭で協力し合って追い込みます。その時、全部食べ尽くさずに数十匹ぐらい残しておくんです。そうすると生き残ったボラがまた群れをつくる。餌を絶やさないためのイルカの知恵です」と木口さんは説明する。
母親のイルカが、死んでしまった赤ちゃんイルカを1週間も抱いたまま泳いでいたり、自閉症の青年がイルカの姿を見て笑顔になったのを見たことから、イルカには人の心を解きほぐし、優しい気持ちにしてくれる力があるといわれる。
人とイルカが共存する島
![イルカが安心して暮らせる通詞島周辺 イルカが安心して暮らせる通詞島周辺]()
通詞島周辺では、古くから漁師とイルカが海の恩恵を分かち合い、長年にわたって共存してきた。昔は天草のあちこちの海に生息していたというが、定置網漁など効率の良い漁法が主流になるにつれて、海を追われたと考えられている。一方、通詞島沖合の早崎瀬戸は、潮の流れが速く、定置網漁に適さない地形のため、昔から素潜りや一本釣りによる漁業が主流だった。その漁法は現在も変わらないため、イルカたちも安心してのびのびと回遊できる。
イルカウォッチングを行う際は、ストレスを与えないように「遊泳を妨げない」、「群れに接近する場合は減速する」など、ツアー実施団体のルールで運行されている。これも、共存していくための決まりごとだ。イルカウォッチングを通して、イルカが暮らしやすい豊かな海を守っていくことの大切さを伝えたいと考えている。