古湯温泉　リノベーションされた温泉街を
現地編集部が徹底ガイド

福岡の市街地から車で約1時間ほど。「古湯温泉（ふるゆおんせん）」は、佐賀県・脊振山系（せふりさんけい）の山間にある温泉地です。その歴史はおよそ2000年。なめらかなアルカリ性の泉質で人肌ほどの”ぬる湯”は、古くから多くの人々に愛されて来た名湯。とろりとした湯は「美人湯」とも言われており、慰労や湯治としても評判です。

太古の時代から地元の人々だけでなく、遠方から来る旅人たちの体も癒してきた古湯温泉。歴史あるこの温泉地一帯では、近年新しい風を吹き込む魅力的なスポットも誕生しています。古湯温泉の観光地として代表的な石畳の”目抜き通り”。「古湯温泉」と書かれたアーケードの周りはどこを切り取っても絵になるような風情のある町並みです。

この石畳のエリア一帯には、古民家や商店をリノベーションしたカフェやレストラン、エステや家具店などが点在しており、古い街並みの中に新しい感覚が混ざり合う場所でもあります。毎年9月中旬ごろには「古湯映画祭」などカルチャーイベントも開催されており、一見しなびたレトロな温泉地はいま、様々な思いで溢れ密かに盛り上がっています。個人で運営する感度の高いお店が集まっているのもこの古湯エリアの特徴。それぞれ店主の”こだわり”を感じるコアなスポットばかりです。

定番の温泉や観光地はもちろん、新しい魅力も光り始めている「古湯温泉」。それぞれの場所で、あたたかい佐賀の人たちの”人柄”にも触れられるはず。山間部に位置しながら、車でのアクセスの他、公共交通機関でも電車とバスの乗り継ぎで訪れることも可能です。都会の喧騒から離れた静かな温泉地で、充実の温泉旅を。

ひと口に「古湯温泉」といっても、その名湯の魅力を堪能できる宿は様々。数ある旅館やホテルの中から、宿泊でも日帰りでも楽しめるスポットをいくつかご紹介します。脊振山の懐にある「I古湯温泉ONCRI」は、”ぬる湯につかり時を忘れる山峡の湯治リゾート”がコンセプトの温泉宿。「カジカカエル」や「蛍」のいる清流、野鳥の声が聞こえる山里の緑に囲まれた場所にあります。和モダンで広々とした施設内は、地元の食材をいかしたバー＆レストランや、スタイリッシュなギフトショップ、キッズスペースやギャラリーなどで充実しています。

宿の大きな楽しみのひとつ「食事」を堪能できるのはレストラン「SEBRI（セブリ）」。デザイン性のある和テイストな空間で、玄海産の魚介類や地元契約農家から毎日届けられる季節の新鮮な食材を使った”ナチュラルイタリアン”を堪能できます。コース料理に加え、ピザやパスタなどのアラカルト、その他種類豊富なメニューが揃っており、ランチなど”レストランのみ”の利用も可能なので、食事に訪れるのもおすすめです。お酒も楽しみたい人は、彩どり鮮やかな壁がおしゃれなバーで身体に優しい「ONCRIオリジナルカクテル」を。こちらも豊富にメニューが揃っているので様々な味を堪能できます。上質な空間で味わうお酒はまた格別。

そしてONCRIの注目の湯処は、”読みかけの本に栞を挟むように、日々の生活に一息入れてゆっくり寛いでいただきたい”という想いから名付けられた「SHIORI（しおり）」。自家源泉のお湯を使用しており、泉温はもちろん38度の「ぬる湯」。1日約43トンも湧き出ているという温泉の湯は身体に負担をかけず、リラックスできます。長時間浸かることもできるので湯治に最適だそう。露天風呂からは天山を望むこともでき、他にも寝湯、立湯、箱蒸し風呂、檜風呂、足湯など、男女あわせると「15種類」の天然温泉を楽しめます。大浴場や露天風呂の他に「天然砂むし温泉」も。マイナスイオンや遠赤外線などの特殊効果を持つ自然素材を天然温泉で加熱し、入ることで新陳代謝や細胞活性化を促す効果があるそう。古湯の宿の中でも、施設自体の規模が大きく新しい感覚も取り入れた開放的な空間が魅力。老若男女で楽しめる、和モダンな宿です。

道路に面した高台に構える「ONCRI」とは対照的に、山間にひっそりと佇む「旅館 大和屋」は、”大人の隠れ家”的な雰囲気が漂う宿です。落ち着いた雰囲気の館内には、昼は喫茶、夜は焼酎バーとして利用できる「喫茶店」の他、古湯温泉オリジナルのアロマオイルの香りに癒される「エステルーム」も。2017年にリニューアルされた客室「佐嘉の間」は、佐賀県産材を使った特別な部屋で、洗面所からトイレまで”佐賀の銘品”が随所に散りばめられています。部屋にある「レコードプレーヤー」や大きな「スピーカー」も他の宿にはない、大人な空間を演出する大和屋ならではの特徴のひとつ。

温泉は、男女別の内湯・露天風呂の他、花を浮かべた貸切風呂も。こちらは女性に人気で、日替わりで「バラ風呂」や「胡蝶蘭風呂」などを楽しむことができる”酒樽”で造られたお風呂です。癒しの甘い香りだけでなく、湯上がりのしっとりすべすべの感触から「若返りの湯」とも呼ばれているそう。夕食では、佐賀牛やみつせ鶏など、佐賀の高級食材を使った料理が味わえます。中でも「佐賀牛の石焼」はA5等級の佐賀牛の中でも希少部位のイチボを味わうことができ、口の中で溶けるそのおいしさが人気。また別料金で楽しめる「佐賀の利き酒セット」もこの機会にぜひ。

しっとりと静かな滞在を楽しみたい方には、全室離れの宿「山あかり」がぴったり。「風がささやく離れの宿」と称する、いわゆる”お籠り”的な宿で、全6室という小さな宿だからこそのおもてなしが人気です。客室は落ち着きのある和モダンなデザインで統一されており、古きよき日本家屋らしい空間。引き戸や土間敷きからは、どこか懐かしさも感じられます。そして「全客室露天風呂付」というのも贅沢なところ。もちろん古湯温泉ならではの「ぬる湯」をここでも堪能できます。客室の露天風呂とは別に男女ひとつずつの大浴場も用意されています。

新鮮な地元食材を使った「懐石料理」や一品一品丁寧に作られた「おばんざい」、「佐賀牛炭火焼」など、出てくるメニューは逸品ぞろい。そして何と言っても”個室”で頂けるところが、より一層自分だけの”贅沢な旅”を盛り上げてくれます。温泉や食事以外にも、施設内にある畳敷きのカウンターでは佐賀県内の焼酎・日本酒を1杯600円から味わうことも可能。冬には”湯たんぽ”の貸出など、この宿ならではの”おもてなし”も。「山あかり」は、ちょっと贅沢なしっとり&大人な滞在を味わいたい人にぜひ訪れてほしい宿です。

それぞれ3つの宿は、「宿泊」はもちろん「立ち寄り湯」でも利用することができるので、日帰り旅行にもおすすめ。同じ「古湯温泉」を堪能できる宿でも、その魅力は様々。ぴったり合った宿を見つけて、自分だけの贅沢な旅を。

地元の人にも人気の「瓦そば 田舎」は文字通り、温かい瓦に茶そばや金糸卵などの具材が乗ったおいしい”瓦そば”が味わえるお店。パリッとしたそばと具材を一緒に温かいつゆに浸して頂きます。”瓦そば”といえば山口県・下関の名物としてイメージする人もいると思いますが、実際に下関で修行し、店主のオリジナルの味付けも加えて生まれた”古湯の瓦そば”もかなり絶品。その味を証明するかのように、11時の開店早々、地元の人が訪れ、”大盛り”で瓦そばを注文する人も。もちろん観光客の間でも知られており、週末は外に列ができるほど多くのお客さんで賑わうそう。

古湯でがっつりお腹を満たしたくなったら、カジュアル&おしゃれな定食が味わえる「古湯キッチン10」がおすすめ。店名の「10」は、”10本の指で手づくりした、体に優しいごはんを食べてほしい” という思いからきたもの。旅館「千曲荘（ちくまそう）」の大女将がオープンしたリノベーションカフェとあって、ランチメニューの定食はご飯・汁物に加え、小鉢の種類が豊富。人気メニューのは「から揚げランチ」。佐賀鶏を自家製のしょうゆ麹に付け込んで揚げた、ふっくら柔らかくジューシーな唐揚げがおいしい。他にも「煮込みハンバーグ」、「とんかつランチ（肥前さくらポーク使用）」などの定食の他、ポークカレーなど豊富なメニューが揃っています。

2019年7月にオープンした「古湯マーケット望屋（mochiya）」も新しい注目スポットのひとつ。空き店舗を改修した店内は、簾の天井や瓦など昔の面影を残しつつも、運営するご夫婦が新たに集めた家具や雑貨でこだわり溢れるハイセンスな空間。店内には、創作イタリアンデリや、フランスの焼き菓子、日用品・雑貨、七宝焼のアクセサリーなどさまざまなコーナーがあります。カヌレやクッキーなどの手作りのお菓子のテイクアウトの他、テーブル席で地元の食材を使用したイタリアンデリを味わうことができます。店内は広すぎず、運営するご夫婦との自然な交流が生まれるのもこのお店の魅力のひとつ。地元の作家さんのアクセサリーや、生活雑貨も販売されているので空いてればゆっくり話が聞けることも。地元の人々にも既に人気で、お菓子を求めて買いに来る常連さんもちらほら。実際に食べてみればその人気にも納得です。

食事を終えて古湯の散策を楽しんだら「CAFE SLOW（カフェ・スロー）」で休憩を。古湯の公民館の右手奥にあるゆったりとしたカフェです。木造平屋を改装して、2016年9月にオープン。ギャラリーとして貸し出すこともあるという店内は、知り合いの家のようなあたたかさとアーティスティックな雰囲気が入り混じるで居心地のよい空間。自慢のコーヒーや、店主自家製のジャムを乗せていただくトーストなど、どれも美味。解放的で大きな窓からは光が差し込み、あまりの心地よさに時間を忘れてついゆっくり滞在してしまいます。テーブル横の棚には様々な作家さんが作った器も飾られており、気に入ったら実際に購入することもできます。ほかにも、家具や雑貨が好きな人におすすめなのが、週末限定でオープンする家具店「地球木工」。オーダーメイドにも応じてくれる家具職人のショールームで、木のぬくもりのあるギフトや土産物を見つけられるかも。

石畳の目抜き通りから少し離れた場所にある嘉瀬川（かせがわ）ダムの隣にあるのは「ダムの駅富士 しゃくなげの里」。ここでは、古湯ならではの自然食材やお土産などを購入することができます。直売処の隣にはレストランも併設されており、施設の横にある大きなダムと豊かな自然の景色を眺めながら食事ができます。人気メニューは「佐賀牛ハンバーグ定食」。やわらかくボリュームもたっぷりで、食べ応えのある一品です。入り口近くでは、古湯温泉が位置する”富士町”産の柚子を使ったソフトクリームなどを購入できる他、外には景色をすぐそばで楽しめるデッキも。買い物・食事・絶景と楽しみどころ満載のスポットです。