えびの高原 地球の息吹を感じられる火山と池へ
日本ジオパークに認定された「えびの高原」は、霧島錦江湾国立公園の北部、標高1150メートルに位置する。周囲を大小20以上の火山に囲まれており、国や県の天然記念物に指定された貴重な動植物も数多く存在する自然観光の名所だ。
![県道1号がドライブルート。左手に見えるのが「硫黄山」 県道1号がドライブルート。左手に見えるのが「硫黄山」]()
地球を意味する“ジオ”と公園を意味する“パーク”を合わせた「ジオパーク」とは、人と地球(大地)の関係を見つめなおす公園のこと。地球科学的に価値の高い地質や地形の自然遺産が保護・保全されており、それらに触れることのできる自然公園だ。
ユネスコが支援しているジオパークは、日本には5カ所の世界ジオパークと20カ所の日本ジオパークがあり、えびの高原を含む霧島は日本ジオパーク「霧島ジオパーク」として認定されている。また、霧島一帯は「霧島錦江湾国立公園」でもあり、昭和9年(1934)に瀬戸内海や雲仙と並んで、最初の国定公園に指定された歴史を持つ。
そんな霧島ジオパークならびに霧島錦江湾国立公園の中心にあるのが、この「えびの高原」だ。韓国岳や甑岳(こしきだけ)など大小20もの火山のほか、不動池や六観音御池などコバルトブルーの火山湖が点在し、国または県の天然記念物・絶滅危惧種の動植物の宝庫でもある。
初心者にもおすすめの池めぐりコースをはじめ、多様なトレッキングコースや登山道も設けられており、県内外から多くの人が足を運ぶ。また、火山帯ならではの温泉も多いため、山歩きの後に湯に漬かって汗を流すこともできる。
取材/鉱脈社『jupia』編集局、平成28年(2016)8月
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初心者にもおすすめ。まずは三つの火口湖を巡るコースへ
![アカマツを見られるのも、えびの高原ならでは アカマツを見られるのも、えびの高原ならでは]()
えびの高原の最大の魅力は、初心者でも散策や山歩き・トレッキングを楽しめることだ。「えびの高原池めぐり」のコースは、えびのエコミュージアムセンターの裏手から出発し、「白紫池(びゃくしいけ)」と「六観音御池(ろくかんのんみいけ)」、「不動池(ふどういけ)」の三つを巡れる達人おすすめのコース。比較的アップダウンが少ない2時間程度の定番コースのため、初心者でも気軽に歩ける。比較的新しい時代の火山で見られるアカマツの森を歩けるのも、えびの高原ならではの体験だ。
えびの高原池めぐりコースの最大の見どころは、35分ほど歩くとたどり着く六観音御池と白紫池の二つの火口湖を望む“二湖パノラマ”だ。二湖の奥には、韓国岳が雄大にそびえる姿を見ることができる。また、六観音御池の周辺には、直径2メートル以上の巨木が20本以上。樹齢500年以上と推定されるコース沿いの杉が、神々しい雰囲気を醸し出している。
「所要時間が2時間」と聞くと長いように思えるかもしれないが、三つの展望スポットをはじめ、火口湖のほかにも見所や観賞ポイントが次々と現れるので、ゴールにたどり着くまではあっという間だ。えびの高原を体感するなら、まずはこの池めぐりコースからスタートするのがおすすめだ。
世界でここにしかない「ノカイドウ」に注目
![4月下旬から咲きはじめるノカイドウ。白やピンクの花をつける 4月下旬から咲きはじめるノカイドウ。白やピンクの花をつける]()
約34万年前から始まった霧島連山の火山活動、氷期・間氷期によって生まれたえびの高原の大地は、多様な動植物が育つ環境となった。中でも注目してほしい植物「ノカイドウ」は、国の天然記念物に指定されており、この一帯にだけ自生するもの。4月下旬から5月下旬にかけて1センチ程度の白やピンクの花をつけ、道路わきなどで見ることができる。
また、九州の高山にだけ自生するツツジ科の「ミヤマキリシマ」も、希少な植物として注目だ。4月下旬から5月下旬にかけて、一般的に紫紅色、まれに桃色や薄紅色のものも見られる。えびの高原では、ほかにもアカマツやモミ、ツガ、ハリギリなどの植物を見ることができる。
なお、特に希少なノカイドウに限らず、高原の動植物を持ち帰ることは、生態系の維持の観点からも禁止されている。常識ともいえるこのルールを知らない、守らない、守れないという人がいることは残念な事実だ。ルールを守ってこそ楽しめる自然とのふれあいだということを意識しながら、これらの希少な動植物を観察してほしい。
散策の基点におすすめの「えびのエコミュージアムセンター」
![えびの高原“通”になれる情報が盛りだくさんのセンター内 えびの高原“通”になれる情報が盛りだくさんのセンター内]()
えびの高原の中腹にある「えびのエコミュージアムセンター」は、散策コースの基点としておすすめの場所。山歩きの前はもちろん、散策後でも立ち寄れば、えびの高原の面白さや神秘がぐっと身近に感じられる。
平成25年(2013)7月にリニューアルした同施設では、霧島連山を構成する20を越える山のそれぞれの特徴や位置、えびの高原に生息する動物の大きさを実物大にしたパネルなどを知ることができる。子どもでも大人でも、楽しみながら学べる工夫が凝らされている。
中でも、火山と植生の分布がわかる立体投影模型や、霧島一帯の特徴を説明する映像展示などのコーナーでは、聴覚や触覚を使ってえびの高原を理解できる。また、同センターは最新の火山活動や入山規制情報などの発信基地でもあるので、登山の際の情報収集にも上手に活用しよう。
最も新しい火山「硫黄山」の歴史に手で触れる
![県道1号沿いの不動池の向かいにそびえる「硫黄山」 県道1号沿いの不動池の向かいにそびえる「硫黄山」]()
えびの高原が火山地帯であることを実感できるのが、えびの高原で最も新しい山「硫黄山」の麓付近。県道1号沿いまで、ごろごろと転がっている白い石に、ときどき黄色い石が混ざっているのが見える。
たまねぎの皮がはがれるように少しずつ割れているのは、火山ガスに長くさらされることで表面がもろくなった結果だ。黄色い部分は硫黄の結晶で、昭和36年(1961)までは硫黄の採集も熱心に行われていた。
「昭和のころは、所々から硫黄を噴出す姿も見られていて、『えびの高原=硫黄の匂い』というイメージが世間に浸透していたといいます。その硫黄山が近年、また元気。そもそもは江戸時代に出現した“若い山”ゆえに、活動と休眠を繰り返す最中というのも納得できます」(古園さん)
硫黄山は、ごつごつとした岩山に手で触れることのできる、まさに生きた火山。登山者も多いのだが、入山規制の発令にはくれぐれも注意しつつ、山腹の爆裂火口の迫力ある姿を目の当たりにしてほしい。