軍艦島に上陸
ベールに包まれた島をフカボリ

日本の近代化を語るうえで欠かせない軍艦島は、明治時代から昭和時代にかけて、海底炭鉱で繁栄していた島。戦後に労働者であった朝鮮人や中国人の帰国や生活困窮者の島外脱出が相次ぎ、一時的に人口が減少しましたが、最盛期である1960年には5300人ほどにまで増加。人口密度は当時の東京の約9倍で、世界最大だったといわれています。

また、幼稚園や小中学校などの学校から、病院、神社仏閣、美容室、映画館、パチンコなどに至るまで、労働者のための充実した施設が島内にそろっていたそう。

1960年以降は、次第にエネルギーが石炭から石油へと移り変わり、1974年の1月15日をもって閉山し、無人島になりました。2000年代の廃墟ブームとも相まって注目が高まるようになり、2008年に、旅行者の上陸や炭鉱施設の見学も可能に。ただし、建物や高層住宅の崩壊が進んでおり、見学には危険もあるため、見学ルートは島の南部にある見学通路や見学広場限定となります。

2015年に、「明治日本の産業革命遺産 製鉄・製鋼、造船、石炭産業」の構成遺産として世界文化遺産にも登録。現在では、長崎観光で人気の観光スポットとして県内外から多くの観光客でにぎわいます。

最近では、元坑員や元炭鉱職員のガイドによる坑内の見学ツアー、クルーズ船での軍艦島周遊クルーズや上陸クルーズなどの長崎市内を集合場所にした軍艦島に上陸できるツアーや上陸プランも多くありますが、今回はその中でも「軍艦島コンシェルジュ」の軍艦島周遊ツアーを紹介します。

軍艦島コンシェルジュには、元島民のツアーガイドが在席しており、上陸率は90%以上。なにより、上陸で見えないエリアについては、船での周遊ツアーがセットのため、軍艦島の全容を見学可能。また、軍艦島をフカボリする「デジタルミュージアム」の入館料が半額にと、お得です。

長崎市内にある長崎港常盤ターミナルに集合し、クルーズに乗り込みます。運が良ければ、軍艦島コンシェルジュ公式キャラクターの、ガンショーくんがお見送りしてくれることもあるのだとか。変わった形をしているガンショーくんは、軍艦島の岩礁がモチーフです。

船に乗り込むと、最初に、船内で流れる軍艦島の映像とともに、炭鉱が取れた時代の歴史を学ぶことができます。

軍艦島周遊クルーズツアーは、メインの軍艦島はもちろんのこと、三菱造船の中にある複数の世界遺産を船内から見ることが可能。長崎県は、500個の島があることでも有名ですが、その島の一部である、高（たか）島や伊王（いおう）島、神ノ（かみの）島が望めます。

船が軍艦島に近づき、パンフレットや映像などでよく見たことがある軍艦島のフォトスポットへ案内されます。自分好みの、船からの軍艦島を記念に残せますよ。

ドルフィン桟橋について、いよいよ上陸。最初に見えてくるのは、貯炭（ちょたん）ベルトコンベアーです。精炭は、ベルトコンベアーによって貯炭場まで運ばれて行き、石炭運搬船に積み込まれていました。現在は、その支柱が残るのみ。その後、第一見学広場に到着し、コンシェルジュより建物を含めた当時の生活の様子や時代背景を学びます。

次に見えるのは、第二堅抗（たてこう）入坑桟橋跡。鉱山施設は、ほとんどが崩壊していますが、第二堅坑へ行くために造られた桟橋への昇降階段部分のみ残っています。

その後、第二見学広場へ。鉱山の中枢であったレンガ造りの総合案内所には、共同浴場があり、これは炭鉱マンのために造られたもの。昔のエピソードを踏まえながら、以前軍艦島で生活をしていた人の貴重な話を聞くことができます。

第三見学広場を経て、日本初の鉄筋コンクリート造のアパート、「30号棟・31号棟アパート」に。大正時代に入ると、それまでの納屋制度が見直されるようになり、鉄筋コンクリートを使用した集合住宅の建造が進められるようになりました。1916年に建てられた7階建ての30号棟アパートは、日本最古の鉄筋コンクリートの高層アパートと言われています。鉱員社宅として建てられ、内庭には吹き抜けの廊下と階段があり、地下には売店もあったそうです。

軍艦島上陸時間は、約1時間30分ほど設けられ、説明を聞いたり、写真撮影をしたりすることが可能。軍艦島を肌で感じたいと思っている人は、とっても充実したツアーになっていておすすめです。

軍艦島周遊クルーズツアーに参加した後は、軍艦島デジタルミュージアムで、実際に当時の生活の様子を垣間見ることができます。

軍艦島デジタルミュージアムとは、最先端のデジタル技術を駆使して、当時の空気感を再現。最盛期には、約5300人もの人が暮らし、世界最大の人口密度を誇った、街の様子を体験できます。

その中から、「軍艦島シンフォニー」「採炭現場の道」「軍艦島のアパートの暮らし」「シマノリズム」「軍艦島30号棟」を紹介。

「軍艦島シンフォニー」は、約3000枚の貴重な写真をコラージュしたもの。30分に1度、流れる「Amazing Hashima」のスペシャル映像はおすすめです。ゆったりとした水平方向のカメラワークによって奥行きを感じ、まるでその空間に入り込んだかのような没入感のある体験になっています。

軍艦島といえば鉱山ですが、現在では建物の老朽化が進み、鉱山の中や坑道の中は立ち入り禁止区域に。しかし、「採炭現場の道」では、坑道体験ができるアトラクションとなっています。ケージやトロッコに乗り、地下坑道へ。地上から採堀現場までの道のりをリアルに体験することができますよ。また、一部の壁紙が、坑道になっており、写真撮影スポットとしても活用されています。

フォトスポットである「軍艦島のアパートの暮らし」コーナー。実際の部屋の家具や雰囲気はそのままに、当時の軍艦島の生活を再現した空間です。中に入って撮影もできるので、訪れた記念になります。実は、30棟以上のアパートの間取りは、さまざまな形をしていたのだとか。軍艦島は、建物の文化においても発展していたことが分かります。

軍艦島ミュージアムで注目したいのが、「軍艦島VR」です。軍艦島立ち入り区域の最新映像をVRで体験するもので、実際にかければ、目の前に軍艦島の内部に迫ります。360度カメラを搭載し、全13カ所の映像を見られるようになっています。

「ジオラマ×デジタル映像で表現　シマノリズム」は、実寸の1/150サイズでジオラマにデジタル映像を投影し、活気に満ちあふれた島の様子を体験するもの。模型は、建物の位置を正確に表しひと目で、軍艦島の中の建物の配置を把握可能。

最後は、日本最古の鉄筋コンクリート造の高層アパートである「軍艦島30号棟」の模型です。現在は、崩壊が進んでおり、近くで見学可能ですが、中の様子を見ることはできません。しかし、模型によって、実際の当時の30号棟の様子が再現されました。築100年を超えた30号棟。以前、30号棟に住んでいた人々の話を動画で観賞できますよ。

ほかにも、タッチパネルで軍艦島の謎を紐解くコンテンツや、軍艦島の映像ギャラリーなど、たくさんの情報が目白押しです。

長崎市軍艦島資料館には、主に軍艦島で実際に使われていた家電製品や生活用品が展示されています。長崎市の野母町（のもまち）にあり、同町は、軍艦島が見えるドライブコースとしても有名です。

館内は、世界文化遺産に認定された、炭鉱の島「軍艦島（端島）」の地下600メートルより深い海底での緊張感あふれる当時の作業様子や、炭鉱マンの生活風景を再現。

軍艦島の歴史はもちろん、文化、日本の近代化に貢献した役割など、他には類を見ない多様な魅力を、パネル展示や映像などで紹介しています。

映像コーナーでは、「軍艦島・明治日本の産業革命遺産」を最新の4K映像で上映。実際の展示物には、軍艦島で使われていたテレビをはじめ、電話や計算器、やかん、子どもが使用していたであろう教科書などもあります。ひとつひとつ、どのような形で使用されていたのかを、詳しく知ることができる貴重な資料館です。

奥に入れば、軍艦島の建物を細かく再現した模型があり、当時の施設の使用方法から生活にいたるまでの記録と一緒に見学も。

高層アパート群や廃墟と化した炭鉱跡などの炭鉱関連施設が当時の趣を残す軍艦島は、映画のロケ地としても重宝されています。

現在は、自由に出入りすることは禁じられていますが、最近では、映画「進撃の巨人」の撮影で話題になりました。女優さんのアクションシーンで使われていたのだとか。原作の雰囲気を再現できる場所として選定。館内には、俳優さんが訪れた記念のサイン入りポスターなども展示されています。

さらに、映画『ホッタラケの島 遥と魔法の鏡』に登場するホッタラケの島と、軍艦島が姉妹島となる認定式が行われたことでも注目を集めました。当時の、炭鉱の島とはまた違ったところで、軍艦島への関心が高まっており、以前とは別の形で活かされているということが分かります。

長崎出身の福山雅治さんも世界遺産登録された軍艦島に魅せられたひとり。福山雅治さんは、写真展『PHOTO STAGEⅢ～残響～』を開催するにあたり、軍艦島に上陸し撮影しています。館内には、そのときの写真も展示されていて、撮影時にかぶっていたサイン入りヘルメットもありますよ。福山さん目当てに訪れた人が、軍艦島のファンになることもあるとか。軍艦島のあらゆる貴重な展示物を、見ることができるのはここだけです。