日本新三景「耶馬渓」の名所を
現地編集部が徹底ガイド

「耶馬渓」は、本耶馬渓・深耶馬渓・奥耶馬渓などからなる「景勝地」として人気のスポット。大分県の最北部にある中津市から、車で約20分ほどの距離にある山国川中流域にあり、本耶馬渓町・耶馬溪町・山国町のほか、日田市・宇佐市・玖珠町・九重町などの町からなる地域です。森林と渓谷が調和した景色が壮観で、1923年にはその一体が名勝に、戦後の1950年には周辺地域も含めて耶馬日田英彦山国定公園にも指定されています。

また、1916年には明治時代創業の出版社、「実業之日本社」が日本三景（松島・天橋立・宮島）にならい、読者投票によって「日本新三景」を選定。「耶馬溪」はそのひとつとして選ばれ、100年以上維持し続けています。

深耶馬溪にある「一目八景（ひとめはっけい）」をはじめとした耶馬渓一帯の秋の紅葉はとても有名。毎年多くの人が訪れる人気観光スポットです。耶馬溪エリアには、他にも「猿飛千壺峡」や「青の洞門」、「羅漢寺」、「耶馬渓橋」など、自然がつくり出した景色だけでなく、昔の人々が造りあげてきた歴史あるスポットもたくさんあります。定番の紅葉の季節はもちろん、1年を通して楽しむことができる「耶馬溪」。紅葉だけではないその魅力を感じてみて。

一目八景（深耶馬渓）
【住所】大分県中津市耶馬溪町大字深耶馬3152
【料金】無料
【駐車場】あり（無料）
【電話番号】0979-54-3111（耶馬溪支所地域振興課）
【公式サイト】https://www.city-nakatsu.jp/kankodocs/2013101800019/
猿飛千壺峡（奥耶馬渓）
【住所】大分県中津市山国町草本
【料金】無料
【駐車場】あり（無料）
【電話番号】0979-62-3111（中津市山国支所地域振興課）
【公式サイト】https://www.city-nakatsu.jp/kankodocs/2011080800013/
競秀峰（本耶馬渓）
【住所】大分県中津市本耶馬渓町曽木
【料金】無料
【駐車場】あり（無料）
【電話番号】0979-52-2211 （中津市本耶馬渓支所地域振興課）
【公式サイト】https://www.city-nakatsu.jp/kankodocs/2011080800037/

耶馬渓のそれぞれの観光スポットは点在していて距離もあるので、車で訪れるのがおすすめ。ほとんどの観光地には駐車場が用意されています。

いくつかのエリアからなる観光地「耶馬渓」の押さえておきたい「見どころ」を、注目の観光スポットが集まる深耶馬渓、本耶馬渓、奥耶馬渓を中心に紹介します。

まず絶対に訪れておきたいのは「一目八景」。耶馬渓の観光地として代表的なスポットです。場所は深耶馬溪の中心地。猿が群がっているように見えて迫力もある群猿山（ぐんえんざん）や、神職でかぶる帽子に似た烏帽子岩（えぼしいわ）のほか、夫婦岩、仙人岩などの岩の形によってそれぞれ名付けられたの8つの奇岩があり、それらの岩峰群を一望できることからそう呼ばれるように。周りに並ぶそば屋や旅館、売店などのちょうど中心には「一目八景展望台」があり、一目八景の撮影にもぴったり。その景観を近くでじっくりと堪能することができます。

さらに川を挟んで向こう側には遊歩道もあり、そこからは展望台からの眺めとはまた一味違った一目八景を見ることができます。注目してほしいのは、季節によって移り変わっていくその景色。春は桜やシャクナゲ、夏は新緑、秋は紅葉、冬は雪化粧。変わっていく季節に彩られながら、一年中変わらずそこにそびえ立つ岩峰群の景色。もちろん写真におさめるのもいいですが、せっかく訪れたならその情景をしっかりと目に焼き付けてください。

奥耶馬渓には、長い年月をかけ、自然の激しい渓流が造りあげた、大小無数の丸い穴「甌穴（おうけつ）」のある「猿飛千壺峡（さるとびせんつぼきょう）」が。約2キロに渡って峡底に広がっています。山国川の清流と河床一帯に広がる変朽安山岩（へんきゅうあんざんがん）、そして小さな石ころの三位一体で生まれた自然の造形物といわれ、国の天然記念物にも指定されています。「猿飛」という名前は、その昔、山猿が現れて岩から岩を飛び回っていたことから名付けられたんだとか。

下流には、1.5キロメートルに渡って伸びる峡谷「魔林峡（まばやしきょう）」が。大分・山国の「高千穂」とも称されるその景観は、季節ごとに幻想的な美しさを見せてくれます。その上流にかかっているのは、1928年に架けられた、石橋アーチの「念仏橋」。魔林峡とコラボしての風景は、プロのカメラマンのフォトスポットにもなっているそう。

次は本耶馬渓へ。ここで立ち寄ってほしいのは「競秀峰（きょうしゅうほう）」。こちらも耶馬渓を代表する景勝地のひとつで、山国川下流側から一の峰・二の峰・三の峰・恵比須岩・妙見岩・釣鐘岩・陣の岩など、巨峰や奇岩群が約1キロに渡り連なっており、その下には江戸時代に手彫りで造られた「青の洞門」があります。禅海和尚が、岸壁の上の危険な道を通る周辺の住民の状況を目の当たりにし、1735年から約30年に渡って手彫りで全長342メートル(トンネル部分は144メートル)のこの洞門の完成させたといわれています。

1750年以降には、人は4文、牛馬は8文の「通行料」の徴収を開始。それらを工事の費用に充てており、「日本初の有料道路」といわれています。

青の洞門は、1906年から約1年かけて行われた大改修で、完成当初の原型は大きく失われてしまったそう。ですが、現在もトンネル内の一部や明かり採り窓などに当時の面影を残す手掘り部分は残っています。訪れたらをぜひその目で確かめてみて。

洞門の下流には「耶馬渓橋」が。地元の人には、その石積み造りの見た目が長崎にあるオランダ橋に似ていると、そのままオランダ橋とも呼ばれています。1923年に竣工したこの橋は、116メートルの長さを誇る日本最長の石造アーチ橋です。大分県の有形文化財にも指定されており、日本百名橋のひとつになっています。また、上流の馬渓橋、羅漢寺橋とともに「耶馬渓三橋」のひとつにも数えられています。橋のたもとには「むかえる、さかえる、ぶじかえる」の三拍子が台座に刻まれたカエルの親子の像があるので、旅から安全に帰ることができるようぜひ祈って帰って。

同じく本耶馬渓で訪れておきたいのが、荒らしい岩山、羅漢山の中腹にそびえ立つ「羅漢寺」。岩山の中に掘られた寺は緑がなく独特の雰囲気で、異国に来たような気分になります。645年にインドからから渡来した仙人が、この岩山の洞窟で修行したことが始まりとされており、日本三大五百羅漢のひとつとされています。1337年には中国の宗教、禅宗の僧侶だった円龕昭覚（えんがんしょうかく）が訪れ、「十六羅漢(仏教の最高の悟りに達した16人の聖者)」を描いて洞窟のなかに掲げたことから、羅漢寺と呼ばれるようになったといわれています。羅漢寺は山の中腹に本堂があるので、参詣には観光リフトが便利。大人往復700円で利用できます。羅漢寺へは中腹で降り、山頂へはそのまま上へ上がると到着します。近くには「古羅漢の景（ふるらかんのけい）」も。

頂上には、ものものしい岩峰や天然橋があり、高さ約100メートルもの丘が続く荘厳な景色です。羅漢寺に入るには、この古羅漢の下のトンネルを通るのが本道なため、その景色はまるで羅漢寺の山門のようになっています。

それぞれの観光地は景色だけでも楽しめますが、各スポットの歴史や背景を知った上で訪れると、また違った景色が見えますよ。

紅葉の時期には各観光地でライトアップも行われる耶馬渓。約100メートルにわたり続くもみじのトンネル「ひさしもみじ」や、広さ2万平米を誇る日本庭園が拡がる「溪石園（けいせきえん）」、「一目八景」でも開催されます。日中の紅葉とはまた違った、優美に輝く耶馬渓の紅葉を堪能してみてください。

最後に、耶馬渓の一味違った楽しみ方をご紹介。美しい景色を楽しみながらのサイクリングはいかが？

耶馬溪鉄道廃線跡を利用して1982年に整備された自転車道「メイプル耶馬サイクリングロード」。鉄道跡を利用しているので、カーブも緩やかで初心者にもお勧めのサイクリングコースです。

県道の臼木沖代線（うすきおきだいせん）から山国町守実（やまくにまちもりざね）までの約35キロが「一般県道中津山国自転車道」。そのうち本耶馬渓から山国までの約22キロが、山国川を沿うように走る自転車専用道路となっており、紅葉に色づく耶馬溪や、青の洞門など多くの景勝地を楽しむことができます。鉄道跡を利用したトンネルや鉄橋など、バリエーションに富んだサイクリングロード。車でのドライブだけでなく、ゆっくりと景色を眺めるサイクリングも耶馬渓を楽しむひとつの方法です。

深耶馬渓の観光地、一目八景の正面にあるのは、鹿鳴館（ろくめいかん）。宿泊や食事ができる本館の横には小さな売店が併設されています。そこで売られているのは名物「そばまんじゅう（1個80円）」。お母さんたちが、店の横で蒸したまんじゅうを提供してくれます。きれいな水を使ったそばが名物の耶馬溪、上質なそば粉とおいしい水を使った鹿鳴館のそばまんじゅうは、そばの風味がよく感じられるうえ、ちょうど良い甘さ。 そばまんじゅうは1個から購入可能。6個入りや15個入りもあるので、お土産にまとめ買いもできます。まんじゅうはすぐ横で蒸されているので、タイミングが良ければ出来立てを食べられることも。訪れた際はぜひ観光のお供においしいそばまんじゅうを。

本耶馬渓にある「道の駅 耶馬トピア」では、そばなどの食事やお土産のほか、事前に予約すればそば打ちの体験もできます。ここにきたら一度味わってほしいのが「そばんこソフト（350円）」。ソフトクリームの上になんと「そば粉」がまぶしてあります。そばが名物の耶馬渓でしか味わえないスイーツをぜひ堪能してください。

耶馬渓の壮観な景色に魅了されたら、昼からゆっくりオープンするおしゃれな喫茶店にも。元は小学校の校舎だった建物を再利用し、喫茶店として運営されている「木精座（もくせいざ）」。こちらでいただけるのは浅煎りから深入り好みで選べるブレンドコーヒー（500円）や自家製ケーキ（500円）。りんごを型どったアップルパイやゆずの入ったケーキは、運営する奥さんが一からケーキを勉強してたどり着いた素朴であたたかい味。季節によって旬のフルーツを使ったりと、ケーキは随時変わるので、注文の際に確認してみて。

店内は薪のストーブを中心に、長年かけて集まったというアンティークな小物や家具が置かれ、一時代タイムスリップしたような落ち着く空間。驚きなのは、この喫茶店を運営する奥さんの母校だということ。学校が廃校になったという話を突然聞き、楽しい思い出の残る校舎をどうにか残せないかと尽力。他の卒業生も含め、来たい人がいつでも来られる場所にしたいという思いから喫茶店にすることを決めたのだそう。そんなストーリーがあるからこそ、座っていると他人同士でも自然と打ち解けてしまうようなアットホームな空間です。耶馬渓に来たら「木精座」でぜひ、ゆっくりと流れる時間を楽しんでください。