ご存知、お岩さんが化けて出てくる怪談

数々の芝居や映画で上演され、世に知られる『東海道四谷怪談』の原作は、四代目鶴屋南北が歌舞伎のために書き下ろしたものです。二枚目の民谷伊右衛門(たみやいえもん)がおのれの欲にかられ、妻に極悪非道をはたらきます。伊右衛門に毒を飲まされて顔面が崩れ落ちたお岩が、櫛ですくたびに髪が抜け落ちる場面は「髪すき」といわれる最大の見どころです。薄気味悪くある一方で、悲哀にくれるお岩の姿は観客の同情を引きます。ほかに、お岩と小平(伊右衛門が殺害)が戸板の表裏に打ちつけられて伊右衛門の前にあらわれる「戸板返し」、燃えさかる提灯からお岩が登場する「提灯抜け」、仏壇の中に引き込まれる「仏壇返し」など、息をのむ奇抜な演出は圧巻のひとことです。