島原城の石垣美と
城下町を満喫する旅へ

眼前に有明海を望み、普賢岳をバックに五層の復興天守が堂々とそびえ建つ島原城。島原城の歴史は、江戸時代にまで遡ります。1618年、時の島原藩主であった松倉重政の居城として、築城されたもの。これ以降、明治期に解体されるまで藩政の中心地として、島原の乱の舞台として、長い歴史を刻んだ城です。

元々、キリシタン大名である有馬晴信が統治していた島原は、キリスト教が広く信仰されていた土地でした。しかし、1612年の江戸幕府によるキリスト教禁止令の発令と時を同じくして、キリシタン大名の有馬氏に代わり、島原藩を治めることになったのが、大名の松倉豊後守重政。有馬氏の時代とは打って変わり、松倉氏が島原藩を統治するようになると、激しいキリシタン弾圧を行うなど、農民たちの生活も大きく変化することになります。

また、当時の松倉氏の石高は4万石と小規模の大名でありながらも、有力大名に匹敵するほどの大規模な島原城の建設に乗り出しました。実は、有馬氏時代からの南蛮貿易によって、藩財政は潤っていたいという面もあります。

松倉重政と松倉勝家の親子2代で農民から無理な年貢の取り立てを行ったり、築城のために溶岩流や火山灰で形成された地盤での過酷な重労働を強いたりと、農民の生活をひっ迫させた結果、農民の不満が爆発。農民一揆である島原の乱が起こりました。

一揆は島原のみならず、天草にまで拡大し、島原城や天草の富岡城も攻撃しますが、なかなか陥落させることができず、天草四郎をリーダーとする約3万7000人もの一揆軍が、廃城になっていた原城に立てこもることになったのです。これが有名な島原の乱です。

大規模な農民一揆である島原の乱の責任を問われた松倉氏に続いて、入城したのが徳川家の家臣であった高力家、松平家です。そして、戸田家が２代続いた後、再び松平家が藩主になり、徳川慶喜の実弟であった松平忠和で、4氏19代と253年続いたその歴史に幕を閉じることになります。

島原城は、見事な曲線美を描く屏風（びょうぶ）折れの石垣、白亜の天守閣が目を引きます。安土桃山様式を受け継ぐ平城で、破風（はふ）飾りのない天守閣は、独立式の5重5階の造りが特徴。島原城が完成したのは、大阪夏の陣の後。実戦的な建物で、飾りはほぼありません。「南蛮造り」と言われ、小倉城と同様の形態となっています。

迫力のある天守閣は、荘厳な雰囲気を漂わせます。天守閣の5階に設けられた展望台からの眺めは圧巻。島原の市街地やなだらかな稜線を描き出す雲仙の山々が一望。創建当時の建物は、残念ながら、明治時代の廃城令により喪失してしまいましたが、現在では本丸跡に石垣や長塀、西櫓（やぐら）、巽櫓などが復元され、往時の姿をしのばせています。

島原城の見どころは、天守閣以外にも、往時の様子をとどめる石垣にあります。東と西が海と山に囲まれており、堀は一重。敵からの侵攻をさえぎるため、石垣積みの「折」（おれ）とよばれる曲がり角を、天守閣にいたる場所まで10カ所以上設けられています。石垣の石は、普賢岳や眉山（まゆやま）のものを活用。移動させる距離も短く、効率のよい城造りだったことがうかがえます。

また、本丸と二の丸との間には、15メートルほどの堀を設置。ふたつをつなぐ廊下橋はひとつだけとし、敵の侵入を防ぐ設えも。城内には、井戸を5カ所掘削し、籠城した際の飲み水として利用。現在も2カ所、井戸が残っています。島原の乱の際には、西の櫓の近くに、クジラ2頭を埋めたとの記録も。長期戦を意識して、食料保存にも目を向けていたようです。大手御門から入って南東側の堀は、70～80メートルの幅に。弓矢は届かない距離で、鉄砲での攻撃だけを、あらかじめ想定していたと考えられています。

本丸内は、資料館としても親しまれています。中でも、キリシタン史料や郷土資料を展示したキリシタン史料館は必見。キリシタン史料館では、貿易と宣教時代のコーナー、禁教時代のコーナー、島原の乱コーナーなど、いくつかの展示施設に分けて、島原のキリスト文化やキリシタン弾圧の歴史について紹介。キリシタン資料館は、島原で花開いた華やかなキリシタン文化から壮絶な島原の乱、厳しいキリスト教弾圧時代の歴史まで学ぶことのできる貴重な歴史資料館。

ほかにも、普賢岳の経過を200インチのスクリーンや写真、模型から学べる観光復興記念館、島原藩主などの武具や書物などの郷土資料を展示した郷土資料館、長崎の平和祈念像の製作者として有名な、郷土出身の彫塑（ちょうそ）家である北村西望の代表的な作品を蒐集した西望記念館が点在。明治から昭和にかけての懐かしい民具を集めた民具資料館などバラエティ豊かな資料館もそろっています。

城内には、内部見学はできませんが、藩主が訓練を視察する「御馬見所」（おんうまみしょ）が現存。江戸時代から残る貴重な建物で、国の有形文化財に登録されています。

築城とともに整備された城下町。現存する武家屋敷群は、下級武士の住居です。町の中央を流れる水路が島原ならではの風景を織り成す「鉄砲町」。町名の由来は、隣家との境に塀がなく、鉄砲の穴を見ているかのようにはっきり見えたことや、鉄砲組の住居地であったことに関係しています。

鉄砲町は、約400年前の島原城の建設に際して碁盤目状に整備され、約690戸もの下級武士が住む町としてにぎわっていました。そこに暮らす人々の生活用水として重要な役割を担ったのが、町のシンボルともなっている水路です。

武家屋敷の水路を流れるのは、約2キロ離れた場所に鎮座する「熊野神社」を水源とする清水。多くの人々が住む町にあって、大切な大自然の恵みである水が、万遍なく行き渡るように水や水質の管理を一挙に取り仕切っていた人が水奉行です。

1日に約22万tもの豊富な水が湧き出し、市内に50ヶ所もの湧水スポットが点在する島原では、1792年の普賢岳の火山活動の影響によって、地下水が噴出するようになったと伝えられています。それを象徴するように、市内には鯉が泳ぐ水路があったり、武家屋敷に水路が走っていたりと、独自の風景が広がっています。これが「水の都」とも称される由縁です。

「鉄砲町」には、かつて、上新丁、下新丁、古丁、中の丁、下の丁、新建、江戸丁と呼ばれる7つの道筋がありました。その中のひとつ、往時の面影を色濃く残す「下の丁」（したのちょう）エリアでは、武家屋敷が無料で一般公開されていますので、屋敷内を自由に見学できます。

山本邸、篠塚邸、島田邸の3軒の無料開放されている武家屋敷も見逃せない観光施設のひとつです。重職で代々砲術師範として藩を支えた山本邸や、郡方祐筆（書記）や代官などとして活躍した篠塚邸。材木奉行や船津往来番などの藩の重職を担った鳥田邸。いずれも、幕末から明治初頭にかけて建てられた下級武士の居宅として利用されていたものです。

同じ武家屋敷でありながらも、藩主に特別な許可を得て作られた上流武士の屋敷をイメージさせる山本邸の門構えは特徴的。Ｌ字型の造りの篠塚邸、台所用品も展示され、広々とした台所を設けた鳥田邸などもあり、それぞれに見る楽しみも。武家屋敷は、どの邸宅も90坪で構成され、果物は自給できるようにみかん類や柿、梅などを植栽。苔（こけ）むした石垣、茅葺（かやぶき）屋根、かまどを備えた土間の台所などが約400年もの歴史を物語っています。

武家屋敷内の売店では、郷土の甘味である「寒ざらし」を提供。モチモチとした食感とほんのりとした甘さで優しく体を癒してくれます。江戸時代の暮らしの一端が垣間見える鉄砲町を散策してみてください。

「日本の歴史公園100選」にも選ばれている島原城では、季節ごとの魅力的なイベントが満載で、観光見どころにもなっています。約300本の紅白梅が一斉に花開く梅祭りや、満開の桜が城に華を添える桜祭りが実施されています。春は桜が、夏は堀に蓮の花が咲き誇り、秋には、天守閣夜間無料登閣や観月茶会などが催される秋祭りを開催。

そのほか、堀のレンコンを泥だらけになりながら収穫する「島原城レンコン掘り大会」は例年10月。1月下旬から3月中旬にかけて島原城下の店舗や家庭が一体となって雛祭りを展示するなど、季節のイベントと島原城のコラボレーションも楽しめます。タイミングを合わせて、イベントを目当てに島原城を訪れるのもおすすめ。

女性のみで構成された「島原城七万石武将隊」もここならではの楽しみのひとつ。有馬 晴信や松倉重政、松平忠雄など、かつて七万石を誇った島原城ゆかりの2名～5名の武将が出迎えてくれます。

甲冑や忍者の衣装も豊富に取りそろえた城内では、こどもも大人も侍や忍者に変身することができます。特別な衣装を身にまとって壮麗な天守閣とともに写真を撮ったり、武将と一緒に記念撮影をしたりと、忘れがたい思い出になること間違いなし。

また、毎月の最終土曜日には、スマホやタブレットのアプリを活用した「謎解きお城脱出ゲームキャッスルモンスター」を実施。

公式ホームページやTwitter、FacebookなどのSNSでも、イベント情報、武将隊の出陣スケジュールなどの知りたい情報が充実しており、数多くの写真とともに、謎解きお城脱出ゲームキャッスルモンスターの動画などが投稿されていますので、ぜひ参考にしてくださいね。

島原城は海や山に囲まれているため、郷土料理も充実。島原で誕生した具雑煮は、島原地方で正月やハレの日に好んで食べられる雑煮のこと。この郷土料理にも島原ならではの歴史が秘められています。

一説によると、島原の乱で原城にろう城した農民たちが持ち寄った餅（もち）や肉、魚、野菜などを煮込んだものが最初とされており、それに「姫松屋」の初代であった糀屋（こうじや）喜衛ェ門が試行錯誤を重ねて、現在の味に辿りついたと伝えられています。具だくさんの具雑煮をいただきながら、ほっこりと休憩するのも旅の醍醐味ですね。

島原城からほど近く、国の登録有形文化財の「青い理髪館」。1923年築の木造2階建ての洋館が一際目を引く建物は、風情あふれるおしゃれな雰囲気。

かつて、理髪店として営業していた店舗は、時代の流れとともに解体の危機に直面しました。そんな時に立ち上がった市民の「建物を保存したい」という声を受けて修復され、1階は喫茶店「工房モモ」として、2階はミニギャラリーとして、新たな命を吹き込まれています。2003年には、国の登録有形文化財に登録。

喫茶店の「工房モモ」では、日替わりランチの「本日の玄米さん」や寒ざらしが人気。ランチはワンプレートで提供され、体のことを意識した玄米菜食。マクロビオティックの思想・手法が取り入れられています。

「寒ざらし」は、島原の湧水で冷やした白玉だんごをシロップにつけたもの。白玉がかわいらしいハートの形をしているのが店の特徴。しあわせ焼きプリンやケーキ、焼き菓子などのスイーツと湧水コーヒーや紅茶、島原牛乳などがそろうドリンクなど、こだわりの品々がいただけます。ノスタルジックな建物と体に優しいランチプレート、優しい甘さのデザート、昔から島原で愛され続ける逸品をじっくりと堪能しましょう。

2024年に築城400年を迎える島原城では、2017年から7年もの準備期間を設けてさまざまな記念事業を展開。その一環として、島原市役所しまばら観光おもてなし課では、2019年2月15日まで島原城築城400年　繋げ未来へ！」のロゴマークを募集しています。

年齢や居住地、プロ、アマを問わずに複数の応募も可能で、厳正な1次と2次審査を経て優秀賞に選ばれたあかつきには、賞金5万円ももらえますので、気になる方は応募してみてはいかがですか。