高千穂峡のツウな巡り方を現地編集部が徹底ガイド
近年スピリチュアル・スポットとして人気を集める「高千穂」。柱状節理(ちゅうじょうせつり)の渓谷・高千穂峡で知られると同時に、日本の滝百選にも選ばれた真名井の滝や、神話に由縁のある「おのころ島」や「月形」「鬼八の力石」など、ここでしか見ることのできない独特な景観が広がっています。高千穂峡は歩いても、ボートでも楽しめる景勝地。高千穂の魅力と楽しみ方を紹介します。
![柱状節理の奇岩と川・滝が織り成す絶景が広がる「高千穂峡」 柱状節理の奇岩と川・滝が織り成す絶景が広がる「高千穂峡」]()
高千穂峡が国の名勝・天然記念物の指定を受けたのが昭和9年(1934)のこと。それ以来、日本を代表する景勝地の一つとして知られるようになった。
五ヶ瀬川(ごかせがわ)の流れが、阿蘇山の太古の火山活動で生じた柱状節理(ちゅうじょうせつり)の岩層を、長い年月をかけて谷底深く削り、さらに磨き込まれた自然の造形美が広がる。中でも「真名井(まない)の滝」はその象徴として名高い。
四季折々の景観は変化に富み、歩いても良し、ボートから眺めても良し。高千穂の自然の楽しみ方を、達人に教えてもらう。
取材/鉱脈社『jupia』編集局、平成28年(2016)8月
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まずは高千穂峡を歩いて楽しむ
![まずは遊歩道から、高千穂峡を眺めてみよう まずは遊歩道から、高千穂峡を眺めてみよう]()
高千穂峡の基本の楽しみ方は遊歩道だ。市街地から向かう場合は、まずは渓谷内にある二つの駐車場のどちからを目指そう。真名井の滝に近い御塩井(おしおい)駐車場か、あららぎ駐車場だ。
二つの駐車場の間には、渓谷に沿って整備された遊歩道があり、片道15分~20分ほど。ここを歩くと高千穂峡の全容を見ることができる。一部に急な階段もあるが、全体的には比較的なだらかで歩きやすい。五ヶ瀬川の緩やかな流れを見ながら歩いていく。国造り神話ゆかりの「おのころ池」や真名井の滝、200トンの巨岩「鬼八の力石」、約100メートルの断崖絶壁「仙人の屏風岩」、そして両岸が川面を覆うように狭まった「槍飛(やりとび)」と、見どころが多い。
ちなみに穴場として、高千穂神社の境内から、あららぎ駐車場付近へと下っていく遊歩道もある。前半は神社境内から続く森の中を進み、後半は眼下に五ヶ瀬川の白い激流と水音を聞きながら、絶壁にへばりついた急な階段を下っていく。前述の遊歩道とは一味違った高千穂峡の姿を楽しめるコースだが、約100メートルの高低差があるため、あくまで健脚向き。もちろん登り返すのはさらに大変なので、帰路はタクシーなどの利用がおすすめ。
※平成28年(2016)8月時点で、高千穂峡の遊歩道は熊本地震の影響により、力石~屏風岩付近が通行止めとなり、迂回路が設定されている。また、高千穂神社からの遊歩道も通行止めとなっている。
人気の高千穂峡ボートで、輝く滝の絶景を堪能
![高千穂峡をボート上から見ると、降り注ぐ滝の水しぶきが輝く 高千穂峡をボート上から見ると、降り注ぐ滝の水しぶきが輝く]()
真名井の滝に近い御塩井駐車場の奥から川岸に降りたところに、ボート乗り場がある。この辺りから川上の槍飛までは平常水位時なら流れも緩やかなので、手漕ぎボートで無理なく行き来できる。遊歩道からは見ることのできない絶景を求めて、ボートで漕ぎ出そう。
乗り場付近の広い淵から真名井の滝の方へと進むと、柱状節理の両岸が急激に狭まってくる。通路のような峡谷の中をさらに進むと、頭上に深くえぐられた岩壁が覆うように迫り、他方からは滝の水しぶきが降り注いでくる。日の光に照らされた飛沫がきらきらと輝く光景は、他のどこでも体験できないものだ。
ただ、景色に見とれたままボートごと滝や落水に突入し、全身ずぶ濡れになる利用客もいる。狭い渓谷内で落水や他のボートをかわしながら進むスリルも、このボートの魅力ではあるのだが、風邪をひきたくなかったら注意が必要だ。
なおこのボート、あまりに人気が高すぎて数時間以上の長い待ち時間が生じることも珍しくない。また、増水時にはボートの貸出しは休止されるので要注意。ボートは3人乗りで、料金は1隻30分で2000円。
※高千穂峡の貸しボートは、平成28年(2016)8月時点で熊本地震の影響により、利用範囲が真名井の滝周辺のみに縮小されている。
火山活動と川の浸食作用が生んだ渓谷美
![高千穂峡の主役ともいえる「真名井の滝」。新緑の時期も美しい 高千穂峡の主役ともいえる「真名井の滝」。新緑の時期も美しい]()
高千穂峡に足を踏み入れてまず目を引くのは、切り立った岩壁と、その表面を覆う筋状の模様だろう。この模様は「柱状節理(ちゅうじょうせつり)」と呼ばれ、ここから30キロほど離れた北西に位置する阿蘇山の太古の噴火活動によって生み出されたものだ。
噴火に伴う大火砕流によって運ばれた高温の堆積物が冷えて固まり、その際に多角柱状の亀裂を生じることで、このような景観になったのだという。垂直に整然と並んだものが多いが、一部の岩層では波打つようにねじ曲がったものも観察できる。
その後、一級河川である五ヶ瀬川の流れが、長い年月をかけてこれを侵食していった。垂直な柱状節理に沿って崩壊を繰り返すことで、両岸が切り立った100メートルに達する峡谷が形成された。さらに川の流れがその表面を滑らかに削り取ることで、小さな窪みから、岩壁がドーム型天井のように水面を覆う空間まで、非常に複雑な地形を生み出したのだ。
そして、この自然の造形をさらに印象深いものとしているのが、高千穂峡の主役ともいえる「真名井の滝」の存在だ。平常時の落差は17メートルと、決して規模の大きな滝ではないのだが、狭く奥深い渓谷に静かに細く注ぎ落ちる様子は必見。まさに“神話のふるさと”らしい美観ともいえる。
真名井の滝の水の源をたどると……
![おのころ池に浮かぶおのころ島と、奥の岩壁の玉垂の滝 おのころ池に浮かぶおのころ島と、奥の岩壁の玉垂の滝]()
高千穂峡は五ヶ瀬川の本流に形成された渓谷だが、この辺りに支流の川はない。高千穂峡へと注ぎ落ちる真名井の滝の水は、いったいどこからやってくるのだろうか?
滝の上手には広々とした「おのころ池」がある。池の名は中にある「おのころ島」、神話の中で日本初の国土となる小島の名に由来する。さらにそのおのころ池の背後にそそり立つ断崖絶壁の途中から幾筋もの水が落ちている。「玉垂の滝」と呼ばれる湧水の滝で、柱状節理の層の境目から水が噴き出している。
この玉垂の滝こそ、おのころ池と真名井の滝の水源だ。この湧水は、ここから1.5キロほど北東の槵觸神社(くしふるじんじゃ)近くにある神話ゆかりの泉「天真名井(あまのまない)」と同じ水脈であると信じられており、これが滝の名の由来でもある。
玉垂の滝付近は御神域である上、現在町の水源地となっており、湧水に直接触れることはできない。ただ、実はおのころ池の裏手に玉垂の滝の水を引いた小さな泉がある。ここでは、用意されたひしゃくに清水を汲んで味見をすることができる。
春夏秋冬。達人おすすめの季節は?
![真名井の滝にかかる虹は、晩秋から春先の一時期にしか見られない 真名井の滝にかかる虹は、晩秋から春先の一時期にしか見られない]()
新緑に萌える春に、渓谷の風が心地良い夏、紅葉が彩る秋……。季節ごとの魅力がある高千穂峡だが、さすがに冬場は少々殺風景に感じられるかもしれない。ただ、そんな冬ならではの楽しみ方もある。それが、真名井の滝の“虹”だ。
普通は虹というと真夏のイメージだが、深くて狭い渓谷の底にある滝に十分な日差しが届くのは、周辺の木々が葉を落とす晩秋から春先にかけての限られた季節。それも、正午前後のそのわずかな時間だけだ。
このチャンスを逃さずに南側から見ると、滝の飛沫にかかる鮮やかな虹を拝むことができる。そばの御橋の上からでも見えるが、ボートからの眺めがとにかく素晴らしい。人気のボートも冬場なら混雑も少なく気軽に乗ることができておすすめだ(写真は12月末の撮影)。