高千穂 渓谷と神話に彩られた日本の聖地
ひときわ特別な響きを持つ「高千穂」の名。柱状節理(ちゅうじょうせつり)の渓谷・高千穂峡で知られると同時に、日本神話の聖地にして、スピリチュアル・スポットの宝庫。雲海の眺めまでもが神々しい。
![名勝・高千穂峡の柱状節理の岸壁をボートから楽しむ 高千穂峡の岸壁をボートから楽しむ]()
宮崎県北部の中山間地にある小さな田舎町・高千穂町。しかし、大地に深く刻まれた柱状節理の大渓谷・高千穂峡は歩いても、ボートでも楽しめる景勝地だ。一方、ここは天孫降臨神話と岩戸神話の2大聖地を抱える「神話のふる里」でもある。神話ゆかりの地を歩きつつスピリチュアルな力に身を委ね、また里人たちが守り伝えた夜神楽の舞に心を震わせれば、神々と人々が共にあったであろう日本の原点へと思いが馳せる。
高千穂峡を2つの角度から楽しむ
![遊歩道からとは異なる視点から渓谷を楽しめるボート ボートに乗って渓谷を楽しむ]()
高千穂の代表的な観光地・高千穂峡。阿蘇山の噴出物から変成した筋状の岩盤・柱状節理を、五ヶ瀬川の流れが削り取った独特の地形が目を引く。静かに注ぎ落ちる真名井滝(まないのたき)は、日本を代表する景観美の1つとして古くから広く知られている。
この高千穂峡の渓谷に沿う遊歩道からは、真名井滝、鬼八の力石(巨石)、仙人の屏風岩(大岸壁)、などの眺めを堪能できる。また、真名井滝近くで手漕ぎボートに乗り込むと、頭上から落ちてくる水の飛沫やドーム状に深くえぐられた岩盤など、遊歩道からとは違った光景に目を見張ることになる。
可能なら遊歩道とボートの両方で高千穂峡を堪能してほしい。貸ボートは3人乗りで2000円(30分)。週末や連休時には数時間待ち、増水時には貸出し休止になるので注意が必要だ。
神話で巡る聖地・高千穂
![高千穂の信仰の中心地・高千穂神社 高千穂の信仰の中心地・高千穂神社]()
高千穂といえば「天孫降臨」だ。日本神話の一場面で、高天原(たかまがはら=天界)にいた神々の中から天照大神(アマテラスオオミカミ)の孫(=天孫)である瓊瓊杵命(ニニギノミコト)を中心とした一行が地上に降り立ち、その地を「高千穂」と名付けて治めるようになった、という話。
ここ高千穂町が「神話のふる里」と称される所以だ。当地の信仰の中心、高千穂神社は瓊瓊杵命以下5世代の神々を祀り、この神話と縁が深い。槵觸(くしふる)神社は降臨の山そのものを祀っている。
また、町の中心部から車で15分ほどにある天岩戸神社。ここは天照大神が洞窟に隠れこもり世界が暗闇になったという岩戸神話の舞台とされる。その洞窟「天岩戸」を拝む天岩戸神社や、困った神々たちが集まったとされる天安河原(あまのやすかわら)などの聖地が有名だ。
スピリチュアル・スポットが点在
![石積みが並ぶ天安河原の洞窟 石積みが並ぶ天安河原の洞窟]()
聖地・高千穂の中でもスピリチュアル・スポットとして特に有名になった地もある。その筆頭が天岩戸神社に近い天安河原だ。付近には参拝者の願掛けとともに積まれた小石の山が並んでいる。東国原前宮崎県知事がここで「宮崎のために働け」との神の啓示を受けたというエピソードは有名だ。その筆頭が天岩戸神社に近い天野安河原だ。参道の小橋では上流からの強いパワーが受けられる。
高千穂神社の本殿右側にある鎮石(しずめいし)は世の乱れを鎮める力を持つとされている。スピリチュアル・スポットは人によって感じ方が全く異なる。感じた、感じないに一喜一憂するのではなく、自分にとって心地よく感じられる地を探すのも、スピリチュアルな旅の楽しみ方である。
気軽に楽しめる地域の伝統・夜神楽
![夜神楽の山場「戸取」で手力男命が岩戸を投げ飛ばす 夜神楽の山場「戸取」で手力男命が岩戸を投げ飛ばす]()
高千穂に欠かせない伝統行事が夜神楽(よかぐら)だ。夕方から翌朝にかけて、徹夜で夜神楽三十三番(33の演目)を奉納する神事だ。その終盤(朝)に岩戸神話にちなんだ舞が奉納されるのが、高千穂の夜神楽の特徴で、手力男命(タヂカラオノミコト)が岩戸を投げ飛ばす「戸取(ととり)」は、一番の見せ場だ。
農閑期の祭りとして、11月中旬から2月上旬にかけて、週末に開催されることが多い。夜神楽は誰でも拝観できる(寸志をお忘れなく)が、冬季限定の夜通しの行事なので、一般的な観光客にはハードルが高い。
そこで、もっと気軽に夜神楽を楽しめるように、高千穂神社神楽殿で毎晩8時から高千穂神楽が公開されている。本格的な夜神楽を1時間にまとめ、町内各地の神楽保存会が持ち回りで休まず披露している。
霧と朝日が織りなす自然のドラマ・雲海
![国見ヶ丘から望む幻想的な雲海の眺め 国見ヶ丘から望む幻想的な雲海の眺め]()
周辺を山に囲まれた盆地に位置する高千穂町では、気象条件によって未明に濃霧が発生し盆地の中に滞留する現象が見られることがある。これが高千穂の秋の風物詩「雲海」だ。
特に、町の中心地の西側にある高台・国見ヶ丘は絶景ポイントとして名高く、9~11月のシーズン中は未明から大勢の見物客やカメラマンで賑わう。東側に広がる雲海が日の出に美しく彩られる神々しい光景は、神話の里にふさわしい光のドラマだ。
雲海の発生には、十分な湿度と快晴時の放射冷却による適度な冷込みが不可欠。秋の周期的な天候の変化の中での、降雨の数日後に快晴無風の天候が巡ってきたときがチャンスだ。