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引き継がれる伝統農法。掛川「茶文字の里 東山」の自然や見どころをご紹介

掛川市|【更新日】2023年10月6日

引き継がれる伝統農法。掛川「茶文字の里 東山」の自然や見どころをご紹介

静岡県掛川市を通りかかったときに、高速道路や新幹線から山に書かれた「茶」の文字を見て「あれは何だろう」と思ったことはありませんか?

茶文字は、茶どころ静岡県でも有数の産地、掛川市東山地区にあります。今回は茶文字の里、掛川東山のお茶づくりや見どころをご案内しましょう。

目次

世界農業遺産「静岡の茶草場農法」とは

茶畑の土づくりのために草を敷く

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標高532mの粟ヶ岳の東側に広がる東山地区。この地域の茶畑は水はけの良い傾斜地が多く、土が乾燥して養分や水分を蓄えにくいという困った一面もありました。

地域の人たちは、ススキやササなどの草を刈って干し、乾いた草を細かく切って茶畑に敷いてみます。

すると、草に覆われることで乾燥しにくくなり、ゆっくりと分解される草によってフカフカで養分を蓄えやすい土へと変わっていきました。

「ひと手間かけて良いお茶を」160年続く営みが認定された

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草刈りから茶畑への敷き込みまでの作業を行うのは秋から冬にかけて。

本来なら農家がようやく骨休めできる農閑期ですが、「ひと手間かけて良いお茶を作りたい」と考える地域の人たちは、この作業を160年も続けてきました。

2013年、この営みは「静岡の茶草場農法」として世界農業遺産に認定されます。写真は認定証のレプリカです。

東山の自然を豊かにするお茶づくり

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「茶草場」とは茶畑に敷く草を生やしている場所のこと。

毎年1回、秋から冬に草を刈って外に運び出す作業を繰り返すことで、外来植物が入り込みにくく、たくさんの種類の植物が維持されます。

競争に弱い草花や生き物が茶草場で守られ、静岡県固有の絶滅危惧種、フジタイゲキという植物やカケガワフキバッタも生き続けています。

昭和7年に粟ヶ岳に掲げられた茶文字

急斜面の茶草場に植えた茶文字は130m四方

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茶文字は粟ヶ岳山頂の少し下、急斜面の茶草場にあります。縦・横およそ130m、巨大な文字を形作るのは約1,000本のヒノキ。

昭和7年、地域の人たちがお茶のPRと観光に役立てようと、最初は松の木で文字を作ります。

初代の松の木の茶文字は残念ながらマツクイムシの被害にあい、昭和60年にヒノキに植え替えました。今も定期的にみんなで手入れを行っています。

手旗信号で確認しながら木を植えた

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右側の写真は茶文字が作られる前、大正3年の粟ヶ岳。頂上左手に小さな森があり、その周囲一帯は草刈り場でした。

茶文字を作った昭和7年頃はトランシーバーなどの通信手段がありません。白い紙をつけた縄を人が持って並び、向かいの山から形を確認して、手旗信号で合図を送って調整したそうです。

斜面の平均勾配は37度。スキージャンプの大倉山ジャンプ競技場の最大斜度は35度。本当に大変な作業です。

遠くからも見える!「茶」の一文字に込められた誇り

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茶文字は東名高速道路や新幹線、富士山静岡空港からも見ることができます。

東山には茶文字ビューポイントが3ヵ所設けられていて、車を停めて写真撮影が可能。

今も昔も、茶文字を見た人は「きっと近くでおいしいお茶を作っているんだろうな」と思うのでは。

「茶」一文字に込められた誇りが伝わります。

粟ヶ岳登山口の憩いの場「東山いっぷく処」

粟ヶ岳登山のスタート&ゴール地点

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粟ヶ岳はおよそ1時間で登頂できる人気の山。

登山口にある東山いっぷく処は、登山者たちのスタートとゴールの場所。無料駐車場に車を停め、トレッキングに出かけることができます。

東山のお茶や地元で採れた野菜、手作りのお菓子やお惣菜が並び、粟ヶ岳や東山の情報がぎゅっと集まる場所です。

トレッキングの時には登頂記録を書こう

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粟ヶ岳に登頂したら、こちらの記録帳を書きましょう。登頂30回を超えると、東山いっぷく処の外壁に名札が掲げられます。

最高齢の登山者はご近所の男性で、なんと御年95歳。登頂回数は2,000回をゆうに超え、今もほぼ毎日登っています。

最年少は4歳の女の子で、登頂回数は200回以上。2歳の頃からお母さんと2人で登っているそうです。

東山を知り尽くす杉山さん

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こちらは東山いっぷく処の杉山さん、名刺の肩書きは株式会社茶文字の里東山“取締られ役”。

東山のお茶のこと、茶文字のこと、粟ヶ岳のこと、何を聞いても答えてくださいます。まさに東山の生き字引!?

株式会社茶文字の里東山は、東山いっぷく処と粟ヶ岳山頂のかっぽしテラスを運営。東山の魅力を広く発信しています。

半世紀前から地域のお茶づくりと共に

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スタッフの咲子さんが「これを見ないと!」と流してくれたのは、50年前の記録映像。

画面に映っているのは、地域のお茶づくりについて真剣に話し合う地域の青年、現在は茶文字の里東山の社長を務める田中さん。

当時も今も、東山地区やお茶に真摯に向き合っています。

白黒の映像には、全国で初めて導入した電動茶刈機を使う様子や、茶園の整備、地域の人々の暮らしなど、貴重な記録が映っていました。

とにかく楽しい接客に和む憩いの場

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とにかく明るく楽しいお二人。

粟ヶ岳に登る人たちも、元気をもらって出掛けていき、下りてきたら休憩しながらほっとする時間を過ごしているのではないでしょうか。

滞在した2時間ほどの間にも、近所の方や粟ヶ岳に来た方が入れ替わり立ち替わり覗いて声を掛けていく、そんな憩いの場でした。

掛川東山のお茶の魅力を学ぶ

太陽の恵みが生んだ深蒸し茶

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掛川は日照時間が長く、太陽を浴びてすくすく育った茶葉は厚くなります。

通常の製茶では茶葉を30秒程度蒸しますが、葉が厚いと通常より2〜3倍長く蒸す必要があり、これを深蒸し茶といいます。

厚く葉緑素が多い葉を深蒸しにすると、カテキンやテアニン、食物繊維をたっぷり含んだお茶に。

お茶を水出しするとテアニン、お湯で淹れるとカテキンを多く抽出できます。

お茶の味の違いがよくわかる飲み比べ

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2種類の茶葉で飲み比べをしてみました。手前が水出し、奥が60℃のお湯で入れたお茶です。茶葉は春陽(はるのひ)と花巡(はなめぐり)。

春陽は4月20日頃、新茶の中でも一番早く収穫したもの。花巡はその1週間後、4月下旬から5月上旬に収穫したもの。

水出しは特に違いが分かりやすく、どちらも出汁のような旨味を感じます。春陽は玉露のような旨味、花巡は昆布出汁のような味と教えていただきました。

収穫時期で細かく分けたお茶のラインナップ

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春陽と花巡の間には、4月下旬に収穫された春風。

花巡の後には、5月中旬収穫の花守(はなもり)、5月中旬以降収穫の花時(はなどき)と続きます。

それぞれのお茶の色、香り、旨味、渋みがチャートで示され、特徴を分かりやすく言葉で表していますので、自分が好きだと思うお茶が選べます。

茶葉もごちそう。オリーブオイルと塩で味わう

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お茶を淹れた後の茶葉もごちそうです。

こちらはオリーブオイルと塩のみで味付けしたもの。食べたことのない野菜のようで、びっくりしました。

醤油と鰹節、ポン酢などでお浸し風にするのもおすすめです。

急須でていねいにお茶を淹れて飲みたくなる

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咲子さんが淹れてくれたお茶は本当においしくて、淹れ慣れている人は違う!と感動。

筆者は夏場にはもっぱら冷茶。クーラーポットに茶葉と水を入れ冷蔵庫で冷やしておくだけ、という乱暴者です。

湯ざましして、ていねいにお茶を淹れようと反省しました。

粟ヶ岳山頂「かっぽしテラス」から絶景を望む

粟ヶ岳登山者をやさしく迎える展望台

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粟ヶ岳山頂に到着すると、かっぽしテラスが迎えてくれます。

“かっぽし”とは、茶草を乾かすときに束ねて円錐形に積んだ状態のもの。2つのかっぽし型のタワーが支える2階部分がパノラマテラス、1階がグラステラス。

1階にはカフェもあります。

茶祖  栄西禅師と茶の里を見渡す

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テラスの前には、栄西禅師の坐像があります。

栄西禅師は1191年に宋(中国)から茶の木の種を持ち帰り、お茶を日本に根付かせました。また、1211年に「喫茶養生記」を書き、お茶の薬効や生産方法、製茶方法を広めます。

ここから眼下に広がる茶の里を見守ってくれているようですね。

太平洋や遠く富士山まで見えるテラス

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2階パノラマテラスからの眺めです。眼下には茶畑がモザイク状に広がり、こちら向きでは奥に太平洋を見ることができます。

北東を向くと、雲がかかっていない日には富士山まで見渡すことができますよ。

山頂で食事やスイーツ、ドリンクも楽しめる

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1階にはカフェがあり、お茶や食事、スイーツを楽しめます。

緑茶やお抹茶とお茶うけのセットは、10:00〜11:00と14:00〜15:30のみの提供になりますのでご注意ください。

なお、月曜と雨の日は残念ながらお休みですので、カフェメニューを味わいたい方はそれ以外の日に訪れてくださいね。

風景を楽しみながらいただく「かっぽしランチ」

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1階グラステラスから風景を見渡しながら、ランチをいただきました。

こちらはかっぽしランチ。メインはしょうが焼きとデミグラスソースハンバーグのどちらかを選びます。

しょうが焼きは豚の脂に甘みがあり、ご飯がすすむ味。

お茶で炊いたご飯と、黄色いくちなしご飯の上には、お茶で作った香りの良いふりかけがかかっています。こちらもかっぽしの形になっていますね。

伝統的なお茶づくりが守る大切なもの

先人が始めた茶草場農法は世代を超えて引き継がれ、地域の自然を守っています。

大切に守られた畑にはおいしいお茶が育ち、飲む人を幸せにしてくれます。茶草場農法は手間がかかり、続けていくのは決してたやすいことではありません。

それでも伝統的なお茶づくりを守る人たちを応援するため、自分に何ができるか考えてみたくなりました。

おいしいお茶を飲みに、ぜひ茶文字の里 東山へお越しください!

東山いっぷく処へのアクセス

  • 【住所】

    静岡県掛川市東山1173-2

    【営業時間】9:00~16:00

    【定休日】水曜(年末年始は若干休みあり)

    【駐車場】あり(約60台)

    【公式サイト】http://www.higashiyamacha.jp/

    ※掲載時の情報です。最新の情報は公式サイトをご覧ください。

かっぽしテラスへのアクセス

  • 【住所】

    静岡県掛川市東山1051-1

    【カフェ営業時間】10:00~16:00(ラストオーダー15:30)

    【カフェ定休日】月曜(祝日の場合は翌日)、雨天時

    【駐車場】あり(60台)

    ※山頂までの道路が狭いため、交通規制を実施する場合があります。また、すれ違いが困難な道路で事故なども発生しているため、車のご利用はお気を付けください。

    【公式サイト】https://www.city.kakegawa.shizuoka.jp/kanko/spot-list/12456.html

    ※掲載時の情報です。最新の情報は公式サイトをご覧ください。

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ライタープロフィール

芦馬 実

芦馬 実

静岡県浜松市出身。現在はフリーランスのライターとして静岡県の魅力を発信中。牛乳やヨーグルト、チーズが大好きで、旅先では地元産の乳製品を必ずチェックする。直売所と道の駅にはついつい寄ってしまう。