近代建築のこだわり満載!御殿場の歴史スポット、東山旧岸邸を訪ねる
御殿場市|【更新日】2023年4月9日

第56代、57代内閣総理大臣を務めた岸信介氏が亡くなるまでの17年間を過ごした邸宅「東山旧岸邸」。
旧岸邸は近代数寄屋建築の先駆者である建築家、吉田五十八氏の晩年の作品でもあります。
今回は近代建築のこだわりが随所に散りばめられている、静岡県御殿場市の歴史スポットをご紹介します。
目次
有形文化財に登録された歴史ある建物
生い茂る竹林の中に立派な山門が出現
入り口を進み少し歩くと山門が現れます。生い茂る竹林と迫力のある山門の組み合わせは、どことなく厳かな雰囲気。
辺りには緑の香りをまとった澄んだ空気が流れ、都会ではなかなか味わえない竹林浴を楽しめます。
自然の恵みを体中に浴びながら、目的地を目指しましょう。
小道を進み、東山旧岸邸に到着
2、3分程歩くと、今回の目的地である東山旧岸邸に到着します。
元首相の邸宅と聞くときらびやかで豪華なイメージを抱いていましたが、実際の外観はいたってシンプル。
派手さはありませんが、洗練された印象を受けます。
1969年に建てられた東山旧岸邸は、現存する吉田五十八氏の建築の中で一般公開されている数少ない建物です。
見学できるのは来客のもてなしで使用された1階部分。早速中に入ってみましょう。
粋・モダンがテーマの近代建築
玄関ホールの家具は当時のまま
入り口の重厚なガラス扉を抜けるとすぐに玄関ホールがあります。設置されている椅子とテーブルは当時のまま。
これらも吉田五十八氏のデザインで、竹で作られた脚が空間に統一感を与えています。
広めに作られた玄関ホールからは当時の来客の多さが伺えます。
実際に椅子に座ってみて、当時の様子を想像してみるのも楽しみ方のひとつです。
近代建築らしい素材を使用
玄関ホールの天井を見上げると、木材、竹、そしてなにやら見慣れない素材が敷き詰められています。こちらはなんと塩化ビニール。
旧来の素材と工業生産材料である塩化ビニールを融合する手法は、吉田五十八氏の近代建築の特徴です。
近代的な素材も取り入れることでよりモダンな雰囲気になり、古さを感じさせない空間となっています。
シンプルな書斎は機能性もバッチリ
一見シンプルな岸氏の書斎。ひび割れや変形が少なく、使えば使うほど味がでる胡桃の木で造られています。
机には岸氏の筆圧でついたであろう傷が散見され、ここでさまざまな文章をしたためていた様子が想像できます。
左横の棚は作業中でも引き出しを開けやすいように斜めに取り付けられており、機能性も抜群。
引き出しと引き出しの間には隙間がなく、ぴったりとはめ込まれている点も、吉田五十八氏のこだわりのひとつです。
和室は五十八氏のこだわりが満載
茶庭を眺めながらゆったりと過ごす
和室からは風情のある茶庭を一望でき、夏には豊かな緑を、秋には鮮やかな紅葉が楽しめます。
つくばいの奥に見える石灯籠は元首相・吉田茂氏から贈られたもの。遠い親戚に当たる2人の政治家の交友関係も伺えます。
お茶が趣味だった岸氏はこの和室に人々を招き、自身が点てたお茶を楽しむこともありました。
こちらの和室は、波乱の人生を歩んだ岸氏の憩いの場だったのかもしれません。
室内のヒーターにも秘密が
床の間横の扉を開くと、そこにはヒーターが隠されていました。
和の雰囲気を壊さぬよう、生活感のあるものは見せないという吉田五十八氏のこだわりを感じます。
横縞の扉は金属製ですが、和室にあっても違和感を感じないデザインです。
旧岸邸内には所々にヒーターが設置されていますが、ヒーターの中を流れるのはなんと温水!
温水の温度を変えることで部屋ごとに室温を調整できる、とても珍しいものだそうです。
床の間には「幽静」の書
一般的なものより低めに作られた床の間には「幽静」の書が飾られています。
「もの深く静かなさま」を意味するこの掛け軸は、岸氏の直筆。土日祝日限定で公開されている貴重なものです。
岸氏が何を思いこの書をしたためたのか、想像力が掻き立てられます。
吊束と欄間を省きすっきりとした空間に
天井を見上げると、和室でよく見られる吊束(つりづか)や欄間(らんま)がないことに気が付きます。
こちらも吉田五十八建築の特徴。和室全体をすっきりとした空間に見せるため、あえて吊束と欄間を省いた設計になっています。
吊り束を省くと鴨居が落ちてくるというデメリットも、長押の上部に金属を入れ、強度を増すことで解決。
シンプルながらも随所にこだわりを感じる、吉田五十八氏の美学が詰まった和室です。
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居間と食堂はあの有名作品のロケ地にも!
自然に包まれる居間
続いて居間と食堂のエリアに進みます。
こちらはさまざまな映画やドラマのロケでも使用されているので、どこかで見たことがある!という方も多いかもしれません。
居間からは自然豊かな庭園が望めます。秋にはノムラモミジやイロハモミジが見頃を迎え、鮮やかな紅葉が楽しめます。
鏡のようなテーブルに映り込む景色と庭園の景色、両方を写真に収められる“写真映え”スポットです。
圧巻のピクチャーウインドウ
食堂の椅子に腰掛け外を眺めると、遮るものがなにもない大迫力の景色が広がります。
障子、ガラス戸、網戸などの全ての戸が押込戸になっており、壁戸袋にしまうことでピクチャーウインドウが完成します。
大きく立派なダイニングテーブルですが、なぜか厨房近くの端っこの部分だけ傷が目立ちます。
ここは岸氏が気に入ってよく座っていた場所だそう。この場所で食事や写経をしながら過ごしたといわれています。
梁は間接照明を活かしたつくりに
食堂の天井には大きな梁が。構造上は不要ですが、天井の間接照明を適度に遮り、やわらかい光が食堂全体に注がれるよう計算して設置されたものです。
広々とした食堂ですが、派手すぎず程よく豪華さもある空間に仕上がっているのは、この照明の効果かもしれません。
映画「海賊と呼ばれた男」やドラマ「探偵が早すぎる」などのロケにも使用された居間と食堂。映画ファンやドラマファンの方は聖地巡礼もおすすめです。
御殿場の四季を感じられる庭園
庭園で季節ごとの変化を楽しむ
小川が流れ、さまざまな植物が植えられている庭園は、季節ごとに異なる表情を見せてくれます。当時は海外からの来賓や要人をもてなす際にも使われていました。
春はスイセンやフジザクラ、夏はあじさい、秋はモミジにムクロジ、冬は雪景色など…。
季節の移り変わりを楽しめる庭園は、いつ訪れても見ごたえがある場所です。
時には昭和の妖怪とも呼ばれていた岸氏も、季節の移ろいが見せる美しい景色に癒やされていたことでしょう。
縁起物、無患子(ムクロジ)を見つけよう
庭園を散策していると、無患子(ムクロジ)の実を発見!
秋から冬にかけて茶色い実を落とす無患子は、その字の通り“子が患わ無い”とされ、古くから子どもの健やかな成長を祈る縁起物として親しまれていました。
今回取材で訪れたのは冬の始め。庭園には無患子の実がたくさん落ちており、小さなお子さんたちが拾い集めている姿が見られました。
寒い季節に岸邸を訪れた際は、無患子の実を是非見つけてみてくださいね。
休憩所ではとらやのお土産も購入可能!
東山旧岸邸の入口横には、ひとやすみできる無料の休憩所があります。
椅子や雑誌が置かれており、お手洗いもあるので、散策が終わって一休みするのにぴったりです。
すぐ近くにあるとらや工房では職人手作りの和菓子も販売されています。
東山旧岸邸では定番のとらやの羊羹も購入できるので、お土産におすすめです。
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御殿場の歴史スポット、東山旧岸邸を見に行こう
随所に吉田五十八氏のこだわりを感じられる東山旧岸邸。
使い込まれたソファーやテーブルからは晩年の岸氏の様子が伺え、激動の時代を生き抜いた政治家の在りし日の姿が目に浮かぶようでした。
東山旧岸邸を知り尽くしたボランティアガイドの方もいらっしゃるので、「もっと詳しく知りたい!」という方は是非利用してみてくださいね。
東山旧岸邸へのアクセス
- 【住所】
静岡県御殿場市東山1082-1
【料金】個人:300円 団体:(20名以上)250円
小中学生:個人150円 団体:(20名以上)100円【駐車場】あり
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