幸福駅・愛国駅
帯広にある愛と幸せの聖地を訪ねる

幸福駅は、1929年に旧国鉄・広尾線の駅として開業しました。北海道の開拓当時、この地は幸震（さつない）と呼ばれてましたが、福井県からの移住者が多いことから「福」を取って、幸福という地名に、そして駅名も幸福駅となったと言われています。長い間、ほとんど誰にも知られることのない無人駅でしたが、1970年代初めにテレビ番組で取り上げられて、この駅は大きく変わりました。北へ２つ目にある愛国駅とともに「愛の国から幸福へ」のキャッチフレーズで大ブームとなったんです。

JRの発足直前に広尾線は廃線となりましたが、廃線後も駅は観光地として残りました。駅舎は老朽化により、2013年に改築されて、木造駅舎や板張りのプラットフォームは当時の雰囲気を残しています。日本中から今もなお、多くの人が訪れる“小さな”有名観光地です。

現在、十勝管内の鉄道といえばJR根室本線、石勝線（せきしょうせん）のふたつだけ。しかし、かつては帯広から十勝南部へは広尾線、北部へは士幌線（しほろせん）、池田から北見方面には地北線（ちほくせん）が延びていました。幸福駅がある南部の広尾線は帯広駅から中札内村・更別村・忠類村・現幕別町の忠類（ちゅうるい）・大樹町を経て、広尾町の広尾駅までの84キロを結ぶローカル線です。駅の数は帯広を含め全部で17ほどありましたが、1987年に全線廃止となりました。

いま現在、待合室のみの駅を含む旧駅舎が5駅（愛国・幸福・忠類・大樹・広尾）残存しています。記念公園の形で残っている（愛国、幸福、忠類）や、バス待合所となっている広尾など形はさまざま。廃線から30年を超えて、5駅もの旧駅舎が当時の面影を残しつつ保存・活用されていることは特筆すべきことです。「愛の国から幸福へ」のブームによって、当時1300万枚もの切符が売れたことが、駅舎保存の後押しをしているのかもしれません。

また、幸福駅は現在では「幸福ふれあい広場」として整備され、年間約10万～15万人もの人が訪れる観光地となっています。とかち帯広空港から帯広市内に向かう途中にあり、芝生や花壇等の整備もされているので、子ども連れやお年寄りにも人気です。ここには、廃車になったローカル列車２両が配置。１両は中が展示室になっており、もう1両は当時そのままの状態で残っています。昭和のローカル列車の雰囲気が広がり、思わずシャッターを押し、懐かしさに浸ることができる場所なんです。

2002年から、帯広市では幸福駅でウェディングを体験できる「幸福駅ハッピーセレモニー」を開始しました（4月下旬～11月に実施）。純愛の聖地である幸福駅で「幸福の鐘」を鳴らし、いつまでも幸せな二人でいたいというカップルに注目されています。さらに、この取り組みが認められ、2008年にはNPO地域活性化支援センターから「恋人の聖地」に愛国駅とともに選定。このように、幸福駅は恋人たちの憧れのデートスポット、結婚を願う若者が訪ねてみたい新・定番スポットとして近年注目を集めています。

■幸福駅ハッピーセレモニー
【問い合わせ（電話）】0155-22-8600（帯広観光コンベンション協会）
【特設サイト】http://kofukueki-happy-ceremony.com/

せっかく幸福駅を訪れたなら、足を延ばしてほしいのが「愛国駅」です。現在、愛国駅の駅舎は改修されて、交通記念館となっています。館内では当時使用していた切符、パネル、蒸気機関車（19671号）が展示されており、記念館横には愛国駅から幸福駅までの片道乗車券を模したモニュメントも設置されています。駅前の商店では現在も乗車券のレプリカが専用のケース（キーホルダー）とともに販売されており、こちらも昭和を思い出させるノスタルジックな逸品です。

ここで注意点がひとつあります。それは幸福駅と愛国駅はセットで宣伝されることが多いため、漠然と“距離が近い”と思いがち。しかし、両駅間は約12キロほど離れており、徒歩で行くのは難しい距離にあります。愛国駅の方が帯広市街地から近いので、帯広駅前からのバス利用者や札幌から高速を使って来る人は愛国駅を先に観光し、その次に幸福駅へと向かうのがおすすめ。

さて、愛国町は1896年の入植が始まりで、地名・駅名は、愛国青年団という開拓団体があったことに由来しています。愛国駅は、広尾線の開通と同時に1929年に設置されました。広尾線の開通は、南十勝発展の原動力となり、多大な功績を残すとともに「愛国・幸福ブーム」など数々の思い出を残しながらも廃線となりました。しかし、旧愛国駅は、ロマン溢れる広尾線を人々の心から消さないために、交通記念館として整備され、今も地域の人たちに愛されています。