里山に残る巡礼古道「秩父札所めぐり」
埼玉県西部の秩父地方には“札所(ふだしょ)”とよばれる34ヵ所の観音霊場がたたずみ、今も江戸時代の巡礼古道が残る。のどかな里山の風景に抱かれた祈りの旅路は、今も昔も旅人の心をやさしく癒やしている。
![多くの巡礼者を迎えてきた秩父の札所。写真は20番岩之上堂 多くの巡礼者を迎えてきた秩父の札所。写真は20番岩之上堂]()
菜の花が咲くころ、秩父連山に囲まれた秩父の里では、鈴の音を響かせて巡礼者の訪れが始まる。それは古くから繰り返されてきた春の風物詩だ。秩父地方には4市町村にまたがって34ヵ所の観音霊場である札所(寺院)が点在する。一つの盆地にこれほど札所が密集している地域は全国でもめずらしい。秩父札所めぐりは室町時代に始まり、江戸時代に隆盛を極めた。元禄期などは1日に2~3万人がめぐったという記録もある。関所を越えずにすむ秩父の札所には女性も多く訪れた。今も江戸時代の巡礼古道が残り、全部たどれば約100キロの道のりだ。カタクリやハスの花、色づいた柿の実や紅葉など、のどかな山里の風景が迎えている。
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里人が大切に守ってきた34ヵ所の札所
![32番法性寺で先達さんに出会った 32番法性寺で先達さんに出会った]()
「梅の花が咲くころには、安全の確認も兼ねて1番から34番まで全行程を歩きます。春になると巡礼者の方が増えますからね」と話すのは、“先達(せんだつ)”とよばれる札所めぐりの案内人の一人。江戸時代から多くの巡礼者を迎えてきた秩父の人にとって、札所はなじみ深い存在だ。地元では、寺の名前より、1番、2番……と札所の番号の方が通りがいい。
全国の札所めぐりの中でも、秩父には大きな特徴があると案内人は話す。「ひとつは、古い道標をたよりに江戸時代の巡礼古道をほぼ全行程でたどれること。山に囲まれて開発を免れたので江戸時代の建物や古道がよく保たれています。それから34ヵ所なのも秩父だけです」。観音霊場は33ヵ所が多いが、西国三十三観音霊場、板東三十三観音霊場と併せて100観音になるように、室町時代にはすでに秩父は34に定められていた。
西国の札所では公家の保護などがあったのに対し、秩父の札所は一貫して里人が守ってきたのも特徴だ。無人の寺の納経所では、今も昼間は住民が交代で巡礼者を迎える。
「長尾根みち」は江戸巡礼古道を歩く屈指の人気コース
![弁天池が広がる25番久昌寺。春はカタクリが咲く 弁天池が広がる25番久昌寺。春はカタクリが咲く]()
江戸巡礼古道をたどる人気コースの一つが、20番岩之上堂から23番音楽寺、25番久昌寺へと続く「長尾根みち」だ。古道らしい雰囲気が残り、眺望もよい。
起点となる20番岩之上堂の観音堂は、江戸初期の建築。秩父札所の中でもっとも古い建物といわれる。明治18年(1885)までは、参拝者は荒川を渡し舟で渡って訪れていた。お堂下の古い巡礼道には渡船場あとの石段が残っている。21番観音寺の先から江戸巡礼古道に入り、険しい山道を登って長尾根丘陵に出ると、視界が開けて武甲山や秩父市街を一望する。十三体のお地蔵さまが並ぶ十三権者の石像や高台にある23番音楽寺を経て、25番久昌寺へ。7月上旬に古代ハスが咲く弁天池が広がり、水面に映る巡礼者の姿は秩父札所めぐりらしい風景の一つとなっている。
江戸巡礼古道を、先達と歩く巡礼者も多い。道端に残る古い道標や石仏、寺の由来などの解説が聞けて、寺ではお経やご詠歌をあげてくれる。札所めぐりがいっそう思い出深いものになる。
舞台造りの観音お堂や岩に乗った観音像など見どころが満載
![子どもを慈しむ姿が印象的な4番金昌寺の子育て観音 子どもを慈しむ姿が印象的な4番金昌寺の子育て観音]()
そのほかの札所もそれぞれ個性的だ。秩父札所めぐりの1番は高篠地区にある四萬部寺。朱塗りの観音堂は元禄10年(1697)に建築された県指定の文化財だ。納経所を兼ねた売店には納経帳などの巡礼用品も売っている。慈愛あふれる子育て観音に目を奪われる4番金昌寺や樹齢600年のコミネカエデがみごとな8番西善寺、舞台造りの古い観音堂を持つ26番円融寺、鍾乳洞の岸壁と一体化したような28番橋立堂など参拝者が多い。30番~34番は市街を離れ、深山の趣が漂う。32番法性寺は船の形をした巨岩に立つお船観音で有名。そして結願の地は山深い34番水潜寺だ。
段丘にひらけた高篠の里や、秋は黄金色の稲穂がそよぎ、秩父のシンボル武甲山を見上げる横瀬の里など、寺を結ぶ道のりの風景も変化に富む。ところどころに温泉も湧いている。車ならば3日、バスと徒歩を組み合わせると5~7日で回れるという道のり。ぜひ、全札所を参拝したい。午年には総開帳が行われ、普段は秘仏とされる本尊を参拝できる。