北海道開拓の村
レトロな建築街道をドウ撮ル？ ドンナ旅スル？

「北海道開拓の村」は、昭和58年（1983）、北海道百年記念事業の一環として、道立自然公園野幌森林公園の一角にオープンしました。その特徴は、道内各地に点在していた歴史的建造物をここに集め、移築復元または再現していること。当初は15棟で始まり、平成10年（1998）までの15年間で52棟まで増やし、現在に至ります。当時の経済的な流れを伝えようと、建物は「市街地群」「漁村群」「農村群」「山村群」の4エリアに分けられ、リアルな集落の雰囲気も味わえるのが魅力。

札幌や小樽、函館などの観光名所と歴史的つながりの深い建物も多いので、北海道観光をより深く楽しめるヒントもいっぱい。「馬車鉄道」など体験メニューや子ども向けプログラムも充実しています。「博物館」のイメージを超えた、歴史のテーマパークなのです。

広い施設内の見学は、無料のガイドツアーもおすすめです。夏期（4月中旬～11月初旬）は10時～15時までいつでも受付OK。冬期も見学1週間前までの予約で対応します。最大90分、時間がない場合は要望に合わせて見所をご案内してくれますよ。ガイドスタッフは、おもてなし精神あふれる地元の市民ボランティアが"語り部"として活動しているので、軽快なトークと共に楽しいひとときが過ごせます。

「北海道開拓の村」の見学モデルコースは「2～3時間」「3～4時間」の2通りありますが、気になる建物を組み合わせて巡るのもいいものです。

まずは「旧札幌停車場」から村の中へ。この建物は、明治41年（1908）から昭和27年（1952）まで使われた札幌の3代目駅舎を縮小再現したもの。レトロな雰囲気を味わいながら入村すれば、目の前はまさに開拓時代。左手にはモダンな「旧開拓使札幌本庁舎」が、広場の向こうには木造の「旧来正（くるまさ）旅館」や「旧近藤染舗」が見えます。駅が現代と過去をつなぐ分岐点の役目を果たすという、この施設ならではの仕掛けが出迎えてくれます。

最初に広がるのは「市街地群」エリア。商店や医院、郵便局、理髪店など庶民の生活に欠かせない31の建物が並びます。広場に通じるメインストリート「停車場通り」の街並みには、誰もがワクワク。「馬車鉄道」も道路の中央を通っているので、馬のいる開拓期らしい風景が堪能できます。特に、通りの中央にある「旧開拓使工業局庁舎」は明治10年（1877）建築、現存する唯一の開拓使関係庁舎として、平成25年（2013）に国の重要文化財に指定されました。屋根の棟飾りやポーチの破風（はふ）飾りなど、おしゃれな洋風事務所建築の面影は今も新鮮。おすすめは夕方で、西日が射すと表情ががらりと変わります。

市街地群の「停車場通り」をずっと進むと、左手の眼下に大きな池が見えます。ここからが「漁村群」エリア。 かつて北海道の一大産業だった「鰊漁」ゆかりの住宅や施設が並びます。

見所は、なんといっても「旧青山家漁家住宅」。 この「青山家」は安政6年（1859）、山形県から北海道に移住し、小樽沿岸を中心にニシン漁で巨万の富を築き上げた網元。 かつて北海道の一大産業だったニシン漁の栄華を今に伝える貴重な建造物であり、最近ではNHKの連続テレビ小説「マッサン」のロケ地としても話題に。「市街地群」の「旧来正旅館」もロケ地となり、どちらもドラマに登場した雰囲気がそのまま残っているので、ぜひ「エリー」と「マッサン」気分で歩いてみて 。 「母屋（番屋）」のほか、「文庫倉」や「米倉」「網倉」などの関連施設も6つ建ち並び、多くのヤン衆を抱えた暮らしぶりや漁の規模がよく分かります。番屋などが残されている地域は他にもありますが、関連施設まで再現展示している場所はなく、スケール感を感じるには持ってこいのスポットです。

また、この建物があった小樽市祝津には、観光名所「旧青山別邸（にしん御殿　小樽貴賓館）」もあるので、旅の前後に訪れるとより深く北海道史を感じられますよ。 JR小樽駅から車で10分の場所で、近くには小樽水族館もあるので、小樽を旅する際はおすすめのスポット。 「旧青山家漁家住宅」も「旧青山別邸」も、高価な資材を使い、優れた技術が生かされた見事な建築美に注目。その豪壮な造りから、当時の鰊漁の繁栄ぶりを実感することができます。

次は「農村群」エリアへ。「漁村群」エリアとの境には軽食堂や「こどもの広場」があるので、少し休んでから散策を続けるのもいいですよ。「農村群」では、開拓期の作物である馬鈴薯（ばれいしょ）や八列とうきび、まさかり南瓜などを実際に栽培し、当時の畑作風景を再現。花や穂の揺れるのどかな景色を眺めながら、開拓民が暮らした3軒の「農家住宅」を訪ねましょう。各家の建築様式を見てみると、どれも造りが異なることに気付くはず。その理由は、それぞれが移住前に住んでいた、故郷の様式を再現しているため。「岩間家」なら宮城県仙台地方、「樋口家」なら富山県、「菊田家」なら新潟県特有の構造や間取りを受け継いでいるのです。開拓民たちは、厳しい農作業の合間、住み慣れた家でひと息つき、故郷を懐かしんだのかもしれません。そんな彼らの日々に想いを馳せることができるスポットです。

最後は「山村群」エリア。うっそうと茂る原生林の中、未舗装道路を歩くので足下には十分気をつけて。丸太の階段を上り下りした先、ポツンと見えるのが「炭焼小屋」。この炭窯は、大正後期の角窯を再現したもので、冬の農家の副業だった往時の暮らしを伝えています。

また、「旧平造材部飯場」の次にある「森林鉄道機関庫」では、夕張岳森林鉄道などで稼働した森林鉄道のディーゼル気動車を展示。鉄道好きの方には、「市街地群」の「旧札幌停車場」「旧手宮駅長官舎」という鉄道ゆかりのスポットを併せて巡るコースもおすすめです。

「北海道開拓の村」を代表する風景といえば、夏の「馬車鉄道」と冬の「馬そり」です。 開拓時代、北海道では移動や運搬を専ら「馬」が担っていました。そんな往時の営みである「馬車鉄道」と「馬そり」を実際に楽しむことができるのです。 シャンシャンと軽やかな鈴の音を響かせ、冬は白い息を吐きながら人やモノを運ぶ様子は、まさに北の原風景。馬のリズムに揺られ、ゆっくり眺める開拓期の街並みは格別で、ここでしか味わえないひとときが満喫できますよ。

「馬車鉄道」は、 レール上の客車を馬が曳くもの。 客車は、札幌の市街を実際に運行していたレトロなデザインを図面をもとに再現しています。 4月中旬～11月末まで開村中は毎日運行。日・祝日は2両体制の30分間隔、それ以外は40分間隔で「市街地群」のメイン道路を出発し、「農村群」⼊⼝付近までの約600メートルを移動します。一方「馬そり」は、 道が雪に閉ざされる冬の交通手段として明治から昭和中頃まで活躍し、雪深い北海道では欠かせなかった存在。 12月の積雪時から3月末の土・日・祝日とさっぽろ雪まつりの期間中運行。12月中は雪に影響されるので、事前に問い合わせた方が確実です。

客車やそりを曳く馬は「道産子（どさんこ）」（正式名：北海道和種馬）という品種。冬の厳しい北海道で繁殖を重ね、やや小型で強健なのが特徴です。辛抱強い性格で持久力があるため、重い荷物も黙々と曳いてくれます。ここでは、赤い綱の「アラシ」と紫の綱の「リキ」が活躍中。アラシは元気いっぱい、リキはおとなしい性格だそう。また、運行ルート沿いには、「旧太田装蹄所」や「旧藤原車橇製作所」などがあり、馬が開拓時代の日常に溶け込んでいた様子もよくわかります。「農村群」エリアには、北海道の開拓に大きな役割を果たした「駅逓（えきてい）」もあるので、足を運んでみて。

体験メニューは他にも用意されています。たとえば「手フート印刷機」の実演。聞き慣れない言葉ですが、「活版印刷」「凸版印刷」と聞けば、イメージしやすいかもしれません。実演が行われているのは、「市街地群」にある「旧小樽新聞社」。明治27年(1894)に創立され、函館毎日新聞・北海タイムスとともに道内の代表的新聞社の一つです。建物は、木造の骨組みに札幌近郊で産出する札幌軟石(溶結凝灰岩)を外壁に積み上げた構造で、明治期石造建築の特徴を示しています。ここでは夏期（4月中旬～11月初旬）は毎日、明治半ばから使われていた小型の手動式印刷機でハガキの印刷を実演。デザインは、村の代表的な建造物3種類。日付も刻印されており、記念に持ち帰ることもできますよ。ちなみに、「手フート」とは、「手」と英語の「フット（足）」を組み合わせたもの。当時の和製言葉を伝えようと、ここではそう呼ばれています。 希望すれば体験も可能で、ボランティアスタッフが丁寧に教えてくれます。

また、「農村群」の「旧山田家養蚕板倉」では、火曜は「むしろ編み」、水曜は「俵づくり」など、曜日ごとに当時の暮らしに欠かせなかったモノ作りを実演しています。昔ながらの「知恵」を実感してください。

キッズが一緒なら、予約なしで無料参加できる「伝統遊具づくり」もおすすめ。「こどもの広場」近くにある「体験学習棟」が会場で、「ぶんぶんゴマ／水鉄砲」「紙とんぼ／竹とんぼ」など、年齢に合わせた2種類のメニューを月替わりで用意しています。親子で参加して、創意工夫した昔の精神を体感してはいかがでしょうか。

施設出入り口の「旧札幌停車場」内売店では、オリジナルグッズも豊富に販売されています。

まずおすすめの記念品は、パンフレット「村のたてもの」（300円／税込、A5判30ページ）。村内に並ぶ明治～昭和初期の歴史的建造物の概要や由来などが分かりやすくまとめた1冊です。案内図もあるので、村内を歩く際のガイドブックとして活用できますよ。 特に注目は、建築年代や建物の構造が紹介された基本データの中の「寄贈者」という項目。これら貴重な建物は、もともと北海道の各地に点在しており、ここに移築・復元してできたのがこの野外博物館。現在に至るまで、実にさまざまな人や団体の協力で成り立っていることが実感できるはず。本文はすべて英訳付きなのもうれしいポイントです。

人気のオリジナルキャラクターグッズは、「缶バッチ」（１個200円／税込）。これは、村内の全52施設から主な16施設を選び、それぞれに合ったキャラクターを描いたもの。ちょっとゆるめの愛らしさが特徴で、全16種類を買い求めたくなるほど。修学旅行生などに人気の商品です。 16種類のなかでも、特に人気の高い4種類は「マグネット」（250円／税込）としても販売。楽しい旅の記念になりますよ。

文房具の中では「クリアファイル」250円／税込）が人気。キャラクターがメインのものと、村内の歴史的建造物も一緒に描かれたものと2種類あが用意されています。

ほかにも、馬車鉄道などが描かれた「メモ帳」（2種類、200円／税込）や「むらびとシール」（200円／税込）などもあり、どれも思わず手に取ってしまうアイテムだ。施設を出る前に売場に立ち寄ってみて。

時間に余裕があるなら、北海道開拓の村から徒歩5分の「北海道博物館」に立ち寄るのもおすすめです。平成27年（2015）春にリニューアルオープンしたばかりで、北海道の自然、歴史、文化などをさまざまな視点から学べます。アイヌ民族に関する展示も充実していますよ。

ここは、昭和46年(1971)4月に道立野幌森林公園に開館した博物館。「北海道開拓記念館」を前身として、平成27年(2015)4月に「北海道立アイヌ民族文化研究センター」を統合し北海道博物館という名前になりました。北海道でも有数の展示物と歴史を体系的に学ぶことができる貴重な施設です。

この博物館は、北海道の自然・歴史・文化を紹介する北海道立の総合博物館。自然環境と人とのかかわりや、アイヌ民族の文化、本州から渡ってきた移住者の暮らしなどを調査・研究し、貴重な資料を収集・保存する施設です。展示や教育に関わるイベント・事業などが開催されています。

現在の総合展示は、北海道の総合博物館として、マンモスゾウとナウマンゾウの骨格標本が出迎える「北と南の出会い」のプロローグ展示を通り抜けると、「北海道120万年物語」「アイヌ文化の世界」「北海道らしさの秘密」「わたしたちの時代へ」「生き物たちの北海道」という自然・歴史・文化を物語る5つのテーマで構成されます。“さわれる展示”や、いろいろな映像・音が流れる展示など、訪れる人々が北海道をまるごと体感できる展示内容となっています。この他、子どもたちにも人気の、「じっくり観察する」「ホンモノにふれる」「道具を使う」「何かをつくる」など、無料で体験ができる部屋「はっけん広場」があります。