関東最古の焼き物の町・笠間で陶芸体験
江戸時代から続くやきもの町。現在も約300人の陶芸家や窯元が日々腕を磨いている。一部の窯元や施設では、手びねり、ロクロ引きなどの陶芸体験ができる。実際に粘土に触れて、自慢の一品を作ってみたい。
![乾燥させた作品は大小の窯室が傾斜地に連なる登り窯で焼成する 乾燥させた作品は大小の窯室が傾斜地に連なる登り窯で焼成する]()
笠間焼きは江戸中期の安永年間(1772~1781)に名主の久野半右衛門が信楽の陶工・長右衛門の指導を仰ぎ、窯を開いたのが始まり。笠間藩の手篤い保護と大消費地である江戸が近いことから、次第に窯元が増えて製陶業が定着する。戦前までは水瓶、すり鉢、酒壺など厨房用粗陶器を主に製造したが、近年は耐熱機能を備えた「笠間火器」として土鍋や陶板など新商品を開発している。新旧の陶芸品を展示した美術館、初心者でも作陶に挑戦できる工芸センターや窯元、ギャラリー・ショップなどがあり、焼き物の町を実感できる。
陶芸家の気分を味わいつつ、世界唯一の陶器を作ろう
![少し形が崩れてもそれが自作の良さ。気取らずに挑戦してみよう 少し形が崩れてもそれが自作の良さ。気取らずに挑戦してみよう]()
笠間市は茨城県の中心地・水戸市の西隣にある。東京・上野から特急フレッシュひたち(友部駅で乗り換え)を使えば約1時間20分で到着する。焼き物の町に来たのならば、作陶に挑戦してみよう。「笠間工芸の丘」の体験工房をはじめ、民間の窯元でも一般参加できる陶芸体験を実施している。主に手びねり、ロクロ引き、絵付けの3つがある。手びねりは粘土を平らに伸ばしたり、リング状にして積み重ねたり。粘土遊びのようで小さな子どもと一緒楽しめる。ロクロ引きは手動ロクロと電動ロクロがある。電動ロクロで、ある程度の作品を作るにはプロでも10年はかかると言われるが、陶芸体験ではスタッフがサポートするので安心だ。
電動ロクロ引きを体験すると、濡らした粘土のヌルッとした触感と冷たさにまず驚く。指先の角度や力加減をひとつ間違えれば、クシャッと歪んでしまうことも。陶芸の難しさを実感するとともに、多くの失敗はスタッフが修復してしまうので、その度にプロの凄さを痛感する。完成した作品は後日、窯で焼き上げて送ってくれる。当日、何を作るかを考えると意外と時間がかかる。あらかじめ決めておき、作陶に没頭するくらいの方がより楽しめる。
笠間焼の買い物が目的ならば陶器市の「陶炎祭」が狙い目。毎年4月29日~5月5日のゴールデンウィークに笠間芸術の森公園を会場として、200軒以上の陶芸家・窯元・販売店が作品を展示・販売する。平成26年に第33回を数えた。当日は陶芸家によるアイデア料理の出店、ろくろ体験などもあり、普段はなかなか会えない陶芸家と接するチャンスでもある。陶芸作家がイベントのために製作した土面のオークションは、毎回白熱したやりとりが繰り広げられる。
マルチな才能を発揮した北大路魯山人の旧宅を訪問
![春風萬里荘の縁側から京都・竜安寺の枯山水を模した石庭を望む 春風萬里荘の縁側から京都・竜安寺の枯山水を模した石庭を望む]()
陶芸の楽しさ、難しさを体感した後は、プロの陶芸作品を鑑賞しよう。「茨城県陶芸美術館」には陶芸家として初の文化勲章を受賞した板谷波山、笠間市出身の人間国宝・松井康成など日本陶芸界を代表する陶芸家の作品が一堂に介している。笠間焼の歴史を紹介するコーナーもある。陶芸だけでなく、書画、篆刻、漆工芸など多方面にその才能を発揮した北大路魯山人ゆかりの「春風萬里荘」も立ち寄りたいスポット。昭和40年に北鎌倉にあった北大路魯山人のアトリエ「星岡窯」の母屋を移築した。元馬屋だった場所を来客用の洋間にするために床に木レンガを敷き詰め、暖炉は自然石で組み、トイレには自作の陶器便器を置くなど、何事にも凝り性だった魯山人のこだわりが随所に見られる。この施設は「笠間日動美術館」の別館にあたり、本館ではピカソ、ルノアール、岸田劉生、藤島武二などの作品を展示している。
美術館だけでなく、窯元の直売所や陶器店をのぞいても面白い。笠間の観光スポットは点在しているので、電車でアクセスする場合は、周遊バスやレンタサイクルを活用するといい。
秋の菊まつりでも知られる、日本三大稲荷を参拝
![正しくは「萬世泰平門」という笠間稲荷神社の楼門 正しくは「萬世泰平門」という笠間稲荷神社の楼門]()
笠間を語る上で、日本三大稲荷の1つに数えられる「笠間稲荷神社」は欠かせない。白雉2年(651)の創建と伝わり、五穀豊穣、商売繁盛、殖産興業、火伏の守護神として信仰される。みやげ店などが両側に並ぶ参道を進むと重層入母屋造りの楼門が参詣者を出迎える。現代的な拝殿で参拝したら裏手に回ろう。江戸末期の万延年間(1854~1860)に再建された本殿が見られる。銅瓦葺総欅の権現造りで、名匠・後藤逢之助作の「三頭八方睨みの龍」、弥勒寺音八と諸貫万五郎が刻んだ「蘭亭曲水の図」など、随所に施された彫刻が素晴らしい。
毎年10月中旬から11月下旬に開催される「笠間の菊まつり」ではメイン会場となる。明治41年(1908)、当時の宮司が戦争で荒廃した人々の心をなごめるため、境内に菊花を展示したのが始まり。平成26年に第107回を迎える。期間中は立菊、懸掛菊、千輪咲き、盆栽菊など最大約5000株の菊花が展示され、工夫を凝らした菊人形も見られる。神事流鏑馬、奉納笠間示現流居合抜刀術、舞楽祭などのイベントも実施する。